ファイナンス

税制の変化に対応できるタックスマネジメントを

タックスマネジメント

2016.09.30

医師も考えておくべきタックスマネジメント

行き過ぎた節税は租税回避行為として税務当局から否認されるリスクが高いですが、タックスマネジメントによって効率よく税金を支払うことは、医院の経営の安定や事業存続にとって欠かせません。

今回は医院のタックスマネジメントについて考えてみましょう。

そもそもタックスマネジメントとは?

タックスマネジメントとは、「税務コストと税務リスクの最適化」を意味しますが、簡単に言えば「税金の負担を軽くする工夫」ということができます。

代表的なものは、法人税と所得税の関係です。法人で利益を得ると法人税の対象となりますが、その利益を役員報酬として支払えば経費にできるので、法人税を少なくすることができます。一方で役員報酬を受け取った個人は所得税を納めることになるわけです。

つまり、役員報酬を調整することによって、法人税として税金を納めるか、個人の所得税として納めるのか選択することができるのです。

個人の所得税と法人税の税制の変化

個人の所得税は、2015年分の所得から増税が行われました。

14年末までは税率の区分は6つで最高税率は40%でしたが、15年からは7区分に細分化され、最高税率は45%へ引き上げられました。住民税を含めると最高税率は55%となり、所得の半分以上を税金として徴収されてしまうという状況にあるのです。

一方で法人税は税率の引き下げが行われています。

14年度までの実効税率は34.62%でしたが、15年度からは32.11%となっています。納税額の面から言えば役員報酬は所得税が32.11%を下回る範囲で支払った方が有利ということになるのです。

政府はさらに法人税の税率を引き下げる方向です。14年末に公表された与党税制改革大綱では、法人税改革の道筋が示されています。

今後、16年度には実効税率を31.33%に引き下げ、その後数年以内に20%台まで引き下げる方針もあります。20%台といえば、所得税では課税所得900万円未満に適用される税率。資金を法人に残した方がますます有利になるのです。

このように税の仕組みの変更によって有利、不利が変わるため、常に動向をチェックしてタックスマネジメントを行わなければ、思わぬ損をしてしまいますので注意しましょう。

続けて、相続税と贈与税のタックスマネジメントについて考えてみましょう。

医院のタックスマネジメント

相続、贈与のタックスマネジメント

子どもに財産を残す場合、生前贈与するのがよいのか、相続にするのがよいのかは迷うところです。贈与税の税率は、相続税の税率よりも高いのです。

そこで登場したのが相続時精算課税制度。生前贈与しても贈与税の支払いは必要なく、相続の際に改めて贈与財産も相続財産に含めて相続税を計算するという制度です。

相続税のかからない人がこの制度を利用すれば、贈与の際は贈与税の負担がなく、相続の時も相続税の負担がないので、結果的に無税で生前贈与を行うことができます。これまでに多くの人が相続時精算課税制度を利用したはずです。

ところが15年1月から相続税の基礎控除が引き下げられました。例えば相続人が3人であれば、14年末までは基礎控除は8,000万円でしたが、15年以降は4,800万円に4割減となりました。

これにより、これまで相続税の対象ではなかった人も、今後は数多くの人が相続税の対象となるはずです。相続税がかからないことを見越して相続時精算課税制度を利用していた人は、計算が狂ってしまいますね。相続時精算課税制度は一度選択すると、中止できないので対策を変更することもできません。

現状では、法人税は減税、相続税は増税の流れ

上記で解説した法人税改革も同様ですが、政府はそのときの経済情勢などを見ながら税の仕組みを変更します。それまでは節税になっていたものが効果を失うだけでなく、逆に増税になってしまうケースもあるのです。

将来の税制の変化まで予測してタックスマネジメントを実行することは困難ですが、世の中の大きな流れを見極めつつ、その流れに政府が税制でどのように対応しようとしているのかを推測し、長期的な視点で対策を講じておく必要があります。

いまは法人税でいえば減税の方向、相続税でいえば増税の方向というのが大きな流れということになります。今後しばらくはそれを前提としたタックスマネジメントを行うべきでしょう。

執筆者:DR’S WEALTH MEDIA編集部
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