MANAGEMENT

理想のスコアは『5・4・3・3・3』

星野リゾートの経営論

2017.08.16

星野リゾートの経営論VOL.3

ビジネスにおいて、かつては商品やサービスの質や性能が他社より優れていれば、それだけで競争を勝ち抜くことができました。しかし技術と情報インフラが発達した今では、質や性能による差別化は難しくなっています。

星野リゾートの星野社長が言うように、レストランで『美味しい』ことが競争力となり得たのはもう昔の話。今や美味しくないレストランを探すことの方が難しくなりました。家電量販店に並んでいるテレビはどれも画像を鮮やかに映し出し、どのエアコンも快適な空間を作り出します。これが質や性能の均質化、いわゆる『コモディティ化』です。

持てる技術を出し尽くしたメーカー・企業は、このコモディティ化から抜け出すために、低価格路線を進み始めました。『安さ』で、消費者の心をつかもうとしたのです。価格競争は、こうして始まりました。

そして多くの企業が価格競争によって利益を失い、疲弊し、消えていったのです。その中で星野リゾートは、安易な値下げをすることも、奇抜なアイディアや施策に頼ることもなく、顧客に選ばれる企業となって成長を続けています。

アメリカにおける経営コンサルタントの権威であるフレッド・クロフォードとライアン・マシューズによれば、それがBtoCビジネスであれBtoBビジネスであれ、すべての取引には価格・サービス・アクセス・商品・経験価値といった5つの要素が関わっていると言います。

そしてこれらのうち、1つは市場を支配できるレベル、もう1つを差別化できるところまで高めていき、残り3つについては業界の標準レベルをキープする。そうすることで、コモディティ化に埋もれることなく、競争力を維持できるのだと。

そして両氏は、その考え方と活用方法を、著書である『ファイブ・ウェイ・ポジショニング戦略』にまとめました。この書籍の存在をコトラーの講演会で知った星野氏は、これを自社の運営に導入し、5つの要素のうち『経験価値』を市場支配するための第1の要素、差別化を成功させるための第2の要素を『アクセス』としました。

つまり、顧客に「リラックスできた」「楽しかった」「美味しかった」と感じてもらうことについてはリゾート業界のトップを目指し、ネットや海外からの予約や問合せなどといった顧客にとってのアクセス容易性については、選ばれるレベルまで高めていくと決めたのです。5段階評価で表現するなら、

経験価値を最高値の『5』とし、アクセスを『4』、残りの価格・商品・サービスについては業界標準の『3』を維持する、といった具合です。

単純に考えてみると、もし5つの要素すべてを市場支配できるレベルまで高めることができれば、不動のポジションを得られるようにも思えます。しかしそれは、むしろ破たんを招くものであり、星野氏もその点は認めています。

なぜなら、すべてにおいて業界トップレベルを目指すには、あまりにコストと時間がかかり過ぎるからです。加えて、業界によってはそれぞれの要素が相容れない場合もあります。

たとえば、低価格を武器にして戦うスーパーに顧客が求めるのは、何よりも『安さ』です。あるいは、さっさと買い物を済ませたいという『アクセス容易性』も含まれるかも知れません。ですが、『経験価値』を高めるためのコンシェルジュの配置や、地域で一番の品ぞろえ、といったものが求められているかは疑問です。

むしろ、これらを行うことで人件費や商品管理コストが上がり、それを価格にのせれば顧客が求める『安さ』は失われ、企業が負担するとなれば利益を圧迫します。

力を入れる要素を絞り込むことで『らしさ』が生まれ、顧客へのメッセージも明確なものとなるのです。コストと労力を1点に集めることで、無駄のないキャッシュフローを組み立てることにも繋がります。

要するに、『選択と集中』です。

歯科医院で例えて、第1の要素に『経験価値』、第2の要素に『アクセス』を選択したとします。それらを達成させるために、まず、治療後に患者様がどのような状態となるのか理想なのか(=医院として提供したい経験価値は何か)を決めます。

例えば、「痛くない・抜かない治療をしてくれた」「ちゃんと理解し納得した上で治療してもらえた」「歯並びが良くなったことでよく笑えるようになった」など医院によって異なるかと思いますが、その理想の状況を作るための技術の向上やスタッフ教育などに励むのです。

そしてSNSを活用したシステムを導入してそこから予約や相談を受け付け、カレンダー表示によって予約状況を一目でわかるようにしたり、わざわざ医院まで行かなくても疑問や不安が解消できるようにしたりすることで、利便性の高さで差別化することが可能です。

価格・サービス・アクセス・商品・経験価値の5つの要素から、1つを市場支配レベル、もう1つを差別化となるレベルにまで高め、あとの3つは業界標準レベルを維持する。理想のスコアは『5・4・3・3・3』

これがすべてとは言いませんが、コモディティ化から抜け出すための有効的な手段であることは確かです。

さて、あなたはこの中から、どの2つを選びますか?

▼参考文献
競争優位を実現する『ファイブ・ウェイ・ポジショニング戦略』 イーストプレス社
フレッド・クロフォード/ライアン・マシューズ著:星野佳路監修
執筆者:DR’S WEALTH MEDIA編集部