ICT技術を活用し、患者に寄り添う医療サービスを提供する
2019.02.09
揺籃期にあるオンライン診療システムの現状と課題
昨年、医療のあり方に大きな変革が起こりました。従来は医師法第20条により無診察治療等が禁止されてきましたが、ICT技術の進化と普及、医療資源の効率化が求められる社会背景のもと、2018年度診療報酬改定でオンライン診療料、オンライン医学管理料が新設されたのです。まだ揺籃期にあるオンライン診療システムですが、その現状と課題について探ってみましょう。
<Society5.0の「健康寿命の延伸」>
遠隔診療といわれていたオンライン診療は、1997年に離島・遠隔地といったへき地を対象という条件付きで医師法違反にならないことを当時の厚生労働省が明確化しました。Windows95の登場によりインターネットが身近になり、電話による遠隔診療が可能になったというIT技術の進歩が背景にあります。2015年には「離島・遠隔地」や「対象患者」は例示であるとの事務連絡が出されました(これがオンライン診療の事実上の解禁とされています)。さらに2017年には「未来投資戦略2017」が閣議決定されました。超スマート社会「Society5.0」の実現に向けた戦略分野のひとつである「健康寿命の延伸」の中で、「対面診療と遠隔診療を適切に組み合わせることにより効果的・効率的な医療の提供に資するものについては、次期診療報酬改定で評価を行う」と明記されました。これが道筋をつけた形になり、その次年度の診療報酬改定で初めて保険点数が認められたのです。
<オンライン診療の成果と問題点>
厚生労働省は、技術の変化に合わせて、よりよい医療を提供するためにオンライン診療を推進してきたとの見解を示していますが、現場からは成果と問題点が報告されています。
例えば、長期の療養を必要とする疾患や小児の疾患の場合、通院が困難になり、最悪の場合は治療が中断してしまうケースがありますが、在宅で受診できるオンライン診療だと治療を継続することができます。しかし、当初はへき地などの医療資源不足や医師偏在問題の解消が期待されていたのに対して、現状はオンライン診療が実施されている地域は都市部に偏っています。また、新たなマーケットの獲得が主目的になっていて、オンライン診療の当初の趣旨から外れているとの指摘や、活用する側の医師からは制度と臨床の矛盾が多いという声もあがっています。また昨年の診療報酬改定後にオンライン診療の対象外となった疾患もあり、これまで行ってきたオンライン診療を断念せざるをえない医院も相当数ある模様です。
<オンライン診療に関する調査>
今年の1月25日に東京都医師会は第31回「医療とITシンポジウム」を開催し、メインテーマに「ICTを医療の普段着として使うために」が掲げられました。そこで発表された「医療IT化に関する調査 平成29年度」(回答数4564)からオンライン診療に関するものを取り上げ、現状を理解するための一助とします。
利用については、「利用している」という回答は2.2%、「知っているが利用していない」は88.4%で、公式にスタートしてまだ1年未満ということもあり、普及率はかなり低いことがうかがえます。加えて「知らない」という回答も8.6%あり、国や学会、サービス提供企業の広報・広告活動の不足によるものか、医師にその存在が十分に認識されてない背景もあります。
賛否に関しては「賛成」は8.0%、「反対」は8.5%。「どちらかといえば賛成」は38.9%、「どちらかといえば反対」は38.4%と、賛成派と反対派が拮抗しています。年齢別の集計はされていませんが、IT機器に馴れ親しんでいる若手医師は賛成派が多く、年配の医師は反対派が多いという世代間の傾向があるという見方もあります。患者数別では1~10名程度は68.7%、11~50名程度は17.2%、51~100名程度は2.0%、100名以上は1.0%と、まだ一部の患者しか利用していない実態が浮かび上がっています。
利用しているサービスに関しては、もっとも利用率が高いのはCLINICS(メドレー社)で44.4%。以下、curon(情報医療社)は33.3%、ポケットドクター(MRT社)は4.0%、スピンシェル(LiveCallヘルスケア)は2.0%と続きます。このように、上位2社で約8割を占めてしますが、サービス提供企業は乱立気味で、今後医師からはどのサービスを利用していいのかわからないといった声が増えていくことも考えられます。サービス提供企業にはシステム内容や料金を明確にして伝達する工夫が求められるでしょう。
<患者に寄り添う医療サービスへの期待>
オンライン診療は産声を上げたばかりで、様々な課題や問題点が山積しているのが現状です。ただ、あらゆるものがインターネットにつながるIoT時代では医療サービスもその例外ではなく、それに加えて「健康寿命の延伸」が国の戦略分野であることから、今後ますますオンライン診療の裾野が拡大していくことが予想されます。
その際に重要な視点は、対面診療とオンライン診療の優劣を比較するのではなく、オンライン診療ならではの価値を追及し、患者に提供していくこと。利便性のみが取り上げられることがありますが、対面診療を含めたトータルの医療の質を高めることがオンライン診療の最大の目的であるでしょう。将来は歯科医院も実施医療機関の対象となる可能性もあります。昨年の12月にIoTスマートハブラシの記事を掲載しましたが、医療サービス提供者は患者に寄り添う、つまり患者との距離をより短くすることがこれから一層求められるのではないでしょうか。
【参照】
東京都医師会HP掲載の「医療IT化に関する調査 平成29年度 結果」
https://www.tokyo.med.or.jp/wp-content/uploads/application/pdf/2019_ITsympo-report1.pdf