マネジメント

効果的な叱り方とは?

求められるリーダー像vol.3

2017.12.20

アドラー心理学に学ぶ、今、求められるリーダー像vol.3

日々、クリニックを運営していく中で、従業員に対して叱る必要が出てくることもあるかと思います。そういった時に、どのように叱るのが効果的か、お悩みの院長先生方もいらっしゃると聞きます。

ただ強く叱るだけでは、これまで築いてきた従業員との信頼関係も崩れる恐れもありますし、最悪の場合は、従業員の退職につながってしまうことも考えられます。とはいえ、優しく注意をするだけでは改善が見られないこともあるでしょう。

では、どのような叱り方をすれば、従業員との信頼関係を崩さず、効果的に叱ることができるのでしょうか。

ポイントは6つあります。

①1対1で叱る

従業員にもプライドがありますから、他の従業員や患者さんの前で叱られると、メンツを潰されてしまいます。従業員がミスをしたその場で注意したくなるかもしれませんが、周りに他の人がいる場合は少し移動するなど、従業員と2人になってから叱るようにしましょう。そうすることで、従業員が自分のミスに冷静に向き合い、反省しやすくなります。

②問題のある行為に対してのみ理性的に叱り、人格否定をしない

従業員を叱る時に、つい感情的になって、「いつも同じミスをしてばかりじゃないか。」と誇張したり、過去のことまで引っ張り出したりして、叱っていませんか。また、「そもそもあなたは普段から調子にのっているのがよくない。」といった風に、従業員の人格までも否定していませんか。

このような叱り方をすると、従業員は萎縮してしまったり、意地になってしまったりして、素直に自分のミスを反省しにくくなります。

例えば、事務処理を間違った従業員がいた場合、その従業員が以前も同じミスをしていたとしても、今回のミスについてだけ、「ここの事務処理が間違っていたよ。」と冷静に叱りましょう。

③相手の私的論理を重視する

同じ出来事でも、人によって見方が変わります。言葉にすると当たり前のことなのですが、従業員とのやり取りにおいては、ついつい忘れがちになっていませんか。従業員には従業員なりの考え方や価値観があり、まずはそれを受け入れた上で話をすすめると、従業員も叱られた内容を素直に聞きやすくなります。

例えば、クリニックで使用する消耗品を、従業員がそれまで使用していたものと別のものを注文したとします。前のものを気に入って、使い続けていたので、変わっていることを知って、いきなり「どうしていつものと違うものを注文したんだ!」と怒ったとします。

そうなると、従業員は萎縮してしまって、どうして違うものを注文したのか、真意を話しづらくなってしまうかもしれません。

まず「いつものと違うものを注文したのは、どうして?何か理由があるの?」と質問形式で聞くようにすることで、従業員も話しやすくなります。

従業員は前のものとの違いが分からず、新しいものの方が安いので、経費削減になると思って注文したのかもしれません。従業員が話しやすい雰囲気を作ることで、真意が聞き出しやすくなるのです。

そうすれば、院長先生方も「経費のことまで考えてくれてありがとう。ただ、前のものを使っていたのには理由があったから、今度からそういう時は一言相談してくれないかな。」と、従業員の考えを否定せず、改善してほしい点を伝えることができます。

④『わたしメッセージ』を使う

『わたしメッセージ』とは共感しながら、自分の意見として伝える言い方で、例えば、「私は、そのやり方は変えた方がいいと思うよ。」という言い方です。その対義語は『あなたメッセージ』となり、批判的に相手を決めつける言い方です。例えば、「あなたの失敗には、皆迷惑している。」という言い方です。

『あなたメッセージ』で叱ると、従業員は萎縮してしまったり、意地になってしまったりして、叱られた内容を受け入れにくくなります。しかし、『わたしメッセージ』で叱ると、「あくまで私はこう思うけれど・・・」といった叱り方なので、従業員からすると「私はそうではなく、こう考えています。」と逃げ場があるので、従業員は素直に受け入れやすくなります。

上手に叱る方法の1つとして、従業員を徹底的に追い詰めず、逃げ場を残しておくという方法があります。『わたしメッセージ』を使うことで、叱られている従業員に逃げ場を残すことができるのです。

例えば、診察室の整理整頓を雑に済ませる従業員がいたとします。その従業員に対して『わたしメッセージ』で、「私は、その方法はよくないと思うよ。」と叱った方が、従業員に逃げ場があるので、叱られた内容を素直に聞き入れやすくなります。

⑤ルールにない限り罰を科さない

例えば、伝票と実際のお金が合わないことがあったとします。そんな時、ある日は会計担当のAさんの給与から差し引くという罰を与え、ある日は、Bさんはいつもきっちりやってくれている人だから仕方がないと許すなどと、明確なルール設定なしで、与える罰をその時の気分や人によって変えてしまうことはないでしょうか。

これでは、従業員は罰を恐れて萎縮してしまいます。また、従業員によっては、罰を恐れるあまり、面従腹背を覚え、ミスの責任を他の従業員に転嫁しようとするかもしれません。ミスの責任を取らせることは、場合によっては必要ですが、ミスの内容と関係のないものであったり、その時の院長先生方の気分で内容を決めたりするのは、悪い影響しかありません。

⑥次のチャンスを与え、中間チェックの時期を決める

従業員を叱る目的は、従業員の行動を改めてもらうことですよね。となれば、一度叱った後に、従業員の行動が改善されているか確認し、場合によっては適宜フォローしなければ、叱った意味がなくなります。

例えば、事務処理を任せるとミスが多い従業員がいたとします。その従業員に対して、「何カ所くらいミスがあったかな?」と、まずは従業員にミスに対する自覚を促し、ミスしやすい箇所の傾向などがあればそれを一緒に確認した上で、「1週間後にもう一度、仕事ぶりを確認したいので、この1週間、ミスしやすい箇所を特に注意しながら、処理してもらえないかな」と、チェックの時期を決めましょう。

1週間後に、思ったほど改善されていなければ、もう一度、一緒にミスを減らす対策を考えた上で、さらに後日、仕事ぶりを確認するタイミングを決めましょう。従業員のミスがなくなるまで、このサイクルを繰り返します。このように、従業員の行動が改善されるまでフォローすることで、叱った意味がでてくるのです。

従業員のプライドを傷つけず、かつ効果的に叱るのは難しいことですが、上手に叱ることができれば、従業員との信頼関係は維持でき、さらに、従業員の行動を改善させられる、管理能力のあるリーダーと周囲に感じさせることができます。

是非、試してみては如何でしょうか。

▼参考文献
『人を育てるアドラー心理学』 (青春出版社、2016年9月) 岩井俊憲著
執筆者:DR’S WEALTH MEDIA編集部
458件の開業医を成功に導いた成功事例集