どのように従業員をまとめていくべきか
2017.09.06
稲盛和夫に学ぶ従業員をやる気にさせるカギvol.2
“従業員と良い関係を築けているし、仕事を任せる際も、その仕事の意味も説明しているけれど、クリニック・診療所をさらに発展させるために何か新しい事をやろうとしても従業員がまとまってくれない。”というお悩みをお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
では、複数の従業員をまとめるためにはどのようなことを心がければよいのか。前回に引き続き、京セラの創業者であり、日本航空を再建した事で知られる稲盛和夫氏が説いた『従業員をやる気にさせる7つの要諦』を元に、例を交えながら紹介します。
従業員をまとめるために、まずは④「ビジョン」を掲げることが重要です。
ここでいう「ビジョン」とはクリニック・診療所の将来像のことです。
稲盛氏は著書『従業員をやる気にさせるカギ』(以下、著書)の中で、京セラがまだ中小零細企業であった時代から世界一になるというビジョンを、倦まず弛まず、従業員に説き続けてきたと振り返っています。
きっと、これを読まれている院長先生方も創業された際や、後を継がれた際に「ビジョン」を考えられたことと思います。しかし、そういった節目だけでなく、日常的に「ビジョン」を思いだし、繰り返し語ってみてください。
さらに「ビジョン」と合わせて、「ミッション」があると、従業員をまとめやすくなります。ここでいう「ミッション」とは会社の使命や目的のことです。
⑤「ミッション」を確立することで、会社の使命や目的を明確にして、それを従業員と共有してみてください。「ビジョン」と合わせて伝えることで、従業員を1つの目的に向かわせることができるので、まとめやすくなります。
学生時代に、野球などのチームスポーツでの主将といったまとめ役を経験されている院長先生もいらっしゃると思います。いろいろな選手がいる中でも、試合に勝つという目的があると、まとまりやすかったのではないでしょうか。
ただし、「ミッション」は大義名分を備えている必要があります。「ミッション」が経営者の独りよがりなものであった場合、従業員はついてきてくれません。
このことについても、京セラでの実例があります。
稲盛氏が京セラを創業した際、その「ミッション」を「稲盛和夫の技術を世に問う」ためと位置づけていました。しかし、創業3年目、京セラがまだ零細企業だったときに従業員たちに一定以上の待遇を保証してほしいと迫られ、戸惑います。
しかし、稲盛氏はよく考えた末、従業員の生活を守ることが会社の目的であると考え直し、自分の技術者としての理想を捨てて、当時わずか60名ほどしかいなかった全従業員の物心両面の幸福を追求することを経営の目的にしようと決意したのです。
また、公器としての企業の責任を果たすために「人類、社会の進歩発展に貢献すること」という一項を加えています。
そして「全従業員の物心両面の幸福を追求すると同時に、人類、社会の進歩発展に貢献すること。」を経営の目的にすると宣言したのです。
稲盛氏は著書の中でこう振り返っています。
もし京セラを、稲盛和夫の技術を世に問う場としていたら、
―中略―
従業員にしてみれば、稲盛和夫の技術を世に広め、稲盛和夫を有名にするためにわれわれは働かされているのか、と思うに違いありません。
―中略―
「全従業員の物心両面の幸福の追求」という目的は、経営者の私利私欲を超えた、従業員のためのものであり、まさに「大義」なのです。
あなたのクリニック・診療所には「ミッション」はありますか?
ない方は大義名分を伴った「ミッション」を是非作ってみてください。また、ある方は今一度、その「ミッション」に大義名分はあるか確認してみてください。
「ビジョン」と合わせて従業員に伝えることで、従業員を1つの目的に向かわせることができます。
さらに、そういった「ミッション」を追求していくためには、院長先生が経営哲学を語り、それを従業員と共有することが重要です。
これが⑥フィロソフィ(哲学)を語り続けるということです。その結果、院長先生の考えを従業員が理解し、尊敬してくれるようになれば、院長先生のリーダーシップで従業員をまとめられるようになります。
しかし、院長先生方の中にはもしかすると、哲学や宗教の本を読んだことがなく、どういったフィロソフィを語ってよいかわからないから、とりあえずそれらしいフィロソフィを誰かから借りてこようと考えられる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、それでもよいのです。
何かを習得するときの考え方の1つに「守破離」というものがあります。新しいことを習得するときには、まずは、教えられたことを「守り」、忠実に真似をします。そこから、自分に合わせて変化させて、教えられたことを「破り」ます。そうすることで、習得したものを自分のものとして扱えるようになるため、教えられたことから「離れ」て、全く新しい技術や知識を開発できるようになります。
このように、最初は借り物のフィロソフィであっても、まずは忠実に真似をすることで、そのうちに自分なりに理解することができます。ただし、注意点があります。
稲盛氏はこう忠告しています。
経営者自身が「心を高める」努力を怠ってはなりません。このことには十分な注意が必要です。
―中略―
経営者は、しっかりとした哲学を学び、自分の器を大きくするように努めるべきです。
つまり、哲学を学び続けて⑦自らの心を高めることで、借りてきたフィロソフィであっても、自分自身のフィロソフィとすることができます。哲学を学ぶには、例えば、本屋で目についた経営哲学の本を読んでみるのも効果的です。
このように、院長先生がフィロソフィを語り続けることで従業員は院長先生の考えを理解し、尊敬してくれるようになります。そのリーダーシップをもって「ビジョン」という大きな目的に向かわせることで、従業員をまとめられるようになるのです。
2回にわたってお伝えしてきましたが、稲盛和夫の教えの中には、医院経営に生かすことができる要素が多くあります。
・従業員が急に辞めてしまって困ったことがある
・従業員との信頼関係の構築に課題感を感じる
・医院の団結力がまだまだ足りない
などと感じられている方は、50年以上続く企業を創った先人の知恵をぜひ参考にしてみては如何でしょうか。
『従業員をやる気にさせる7つのカギ』(日本経済出版社、2014年2月) 稲盛和夫著