『その他大勢』から抜け出すための常識と非常識
2017.08.02
星野リゾートの経営論VOL.1
ところが、時には奇抜にも思えるそれらの施策はすべて教科書通り、いわゆる『経営書』に書かれていることをそのまま実践しているだけだというのです。星野リゾートの4代目社長である星野氏も、著書である『星野リゾートの教科書』の中で
「囲碁や将棋の世界に定石があるのと同じように、教科書に書かれている理論は『経営の定石』である」
と述べています。
例えば、島根県の玉造温泉にある『華仙亭有楽』は、かつてはどこにでもあるような旅館でした。これといった特色もなく、ライバル旅館との競争から抜け出すことができないまま経営が行き詰った状態でした。しかし星野氏は、思い切って客室を半分に減らし、すべての客室に露天風呂を備えるなどして高級化戦略を図り、見事に再生させたのです。経営が厳しい中で客室を半分に減らすというのは、見方によっては奇抜なアイディアにも思えます。しかし実は、これも『競争の戦略(ダイヤモンド社:マイケル・E・ポーター著)』という競争戦略の教科書に書かれている理論を実践した結果だといいます。
また、あるスキー場のレストランでは、人気メニューであるカレーライスに
「一口食べておいしくなければ返金します」
という『おいしさ保証』をつけることで顧客満足度を高めることに成功しました。さらに、目の前のお客さんから評価されることで、それまでサービスに対する意識が低かったスタッフが、自分の仕事に責任を持つようになったそうです。
この施策を採用した背景にも、アメリカの経営学者であるクリストファー・W・L・ハート氏の『サービスの100%保証システム』という論文の存在があります。
ともすれば経営の現場では、書籍や論文などに書かれている理論やノウハウは
「机上の空論だ」
と一蹴されることもあります。ですが、長い年月をかけて数多の企業を調査し、膨大な事例の中から見つけ出された成功法則や体系化された理論は、まさに『経営の定石』と言えます。
単なる思いつきや一か八かの施策、流行に左右されるようなアイディアでは、長期的な利益にはつながらないかもしれません。しかし、
「受け継がれてきた経営書にある定石を理解していれば、思い切った経営判断に勇気を持って踏み切ることができる」
これも、星野氏の言葉です。
経営を続けていれば、方向転換や状況の改善を迫られることもあるでしょう。しかしその時、判断基準となるものがなければ何も手を打つことができない、あるいはギャンブルのような施策を立てることになります。それでは良くて現状維持、最悪の場合は経営破綻にも繋がります。
現状を変えたい・・・
このままでは先がない・・・
もしあなたがそう考えているなら、教科書となる本を選び、『先人の知恵』と捉えて経営に活用してみてはいかがでしょうか?
星野リゾートの教科書:日経BP社