マネジメント

『スタッフを守るため』の業務の見直しとは?

『働き方』を考える

2017.06.21

スタッフの『働き方』を考えるVol.2

ヤマト運輸の残業代未払い問題の背景には、『圧倒的な人手不足』がありました。そして、その人手不足に拍車をかけたのが、『再配達』の問題です。

国土交通省の調べによると、平成27年度の宅配便の取扱い個数は37億4,493万個、前年比で1億3,114万個の増加となっています。一方で、各宅配業者は、取扱量に見合うだけのドライバーを確保できていません。そこへ追い打ちをかけるかのように、利用者の不在などによる再配達が増えているのです。その数は、全体のおよそ2割。単純計算で年間に7億4千万個以上にも上ります。

現場では、「指定された時間に届けても不在、さらに再配達依頼の電話を受けて届けたのにも関わらず不在、なんてことも珍しくありません。多い日には、午前中指定の荷物が3割以上残ることもあります。再配達が2割以下なら、まあ順調な方ですよ」といった声も挙がっています。100個で済むところを、120個配達しているのと同じです。その上、利用者が帰宅する20時以降の再配達依頼も多く、長時間労働へとつながっているのです。

こうした状況を打破するには、一体どうすればいいのでしょうか。もちろん受け取る側、つまり利用者にモラルの確立を促すことも必要ですが、そうした受動的な対策では何も解決しません注力すべきは、『業務の見直し』です。再配達の問題に関していえば、すでに少しずつ進められていますが、宅配ボックスの設置や配達時間の見直しなどです。

ちなみに、宅配ボックスの見直しと聞くと「宅配業者ではなく、駅やマンションなどといった他の企業が取り組むべき問題なのでは?」と思われる方もおられるでしょう。実際に、個人宅を含めて「再配達問題に貢献できるなら」とロッカーを購入する動きがあるのも確かです。

しかしながら、マンション側にロッカーの新設を求めるのは、現実的ではありません。なぜなら、設置費用に見合う直接のメリットが、マンション側にないからです。そのため、宅配業者側が費用を拠出しながら、駅やスーパーなどに設置の協力を求めているというのが実情です。

宅配業者の施策として、実際に駅やスーパーのロッカーで荷物を受け取れるサービスもありますが、設置箇所も少なく、利用も会員に限られているなど、利便性が高いとは言えない状況です。しかし政府の方針で、この4月より、業者に対して設置費用の半額を補助する制度が新設されました。それに伴い、宅配業者によるロッカーの設置も進むと考えられますが、『設置できる場所に限りがある』という問題も残っており、再配達問題を解消するには、業者側の強い推進力が必要なのです。

また、業務の見直しや効率化というと、不要な作業の洗い出しをイメージするかもしれません。当然、それも大切なことです。しかしもっと重要なのは、それが本当に必要なサービスなのか、を見極めることです。過剰なサービスを抑制する意味でも次の『宅配時間の見直し』は必須でしょう。

たとえば、午前中指定の配達物を午前中に届けるのは、履行されるべきサービスです。では指定された時間に不在の場合も、何度でも無料で配達するのが当たり前のサービスでしょうか?

20時~21時という僅かな時間帯に再配達依頼が集中し、結果的に配達が21時を過ぎてしまいクレームを受ける。果たしてそれは、ドライバーの責任なのでしょうか?

顧客の利便性を追求するのは、悪いことではありません。しかし、意味のない作業や過剰なサービスに振り回されることでスタッフを失い、そのためにサービスの質が下がってしまうのでは本末転倒です。不要な作業を仕分けし、ムダを省くことでスタッフのストレスを軽減する。その上で必要なサービスを見極めて意識と労力を集中させ、仕事のパフォーマンスを上げる

労働環境を改善することができれば、スタッフの定着率も上がります。働きやすい環境があれば、新たな採用にもつながります。至れり尽くせりではなくとも、本当に必要とされているサービスを提供していれば、顧客を失うことはありません。その質が高ければ、むしろ口コミで顧客を増やすこともできます

歯科医院にも、治療や診察だけでなく、事務手続き、データ管理、備品や設備の管理など、多くの業務がありますが、そのすべてが、絶対に必要なものだとは限りません。あるいは、ムダな作業や過剰なサービスが、院長自身やスタッフの時間とモチベーションを奪っていることもあります。ただでさえ新たな採用が難しい中、そんなことで大切な人材を失いたくはありませんよね。

スタッフに長く働いてもらい、働きやすい環境の中で質の高いサービスを提供し、患者さんの満足度を高める。運送業界の二の舞とならないためにも、私たち経営者には『スタッフを守るための業務の見直し』をする義務があるのではないでしょうか?

執筆者:DR’S WEALTH MEDIA編集部
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