マネジメント

大切なのは『規制』ではなく『管理』すること

ホセ・ムヒカに学ぶ『ルールの定め方』

2017.05.24

ホセ・ムヒカに学ぶ『ルールの定め方』Vol.1

2012年6月。ブラジルで『リオ会議』(環境と開発に関する国際連合会議)が開催され、各国の首脳によるスピーチが行われました。そして最後の1人として演台に立ったのが、第40代ウルグアイ東方共和国大統領、ホセ・ムヒカ氏です。

無難な意見でまとめられた形式的なスピーチが続く中、彼は、「我々の前に立つ巨大な危機問題は、環境問題ではない。政治的な危機問題だ。『使い捨ての社会』という悪環境の中にいることに気付いているか?」という本音のスピーチを行い、世界各国に多くのファンを生みだしました。

そんな彼が、大統領時代に行った政策の中に、『マリファナの合法化』があります。マリファナが合法化されたのは世界初であり、この功績によって、彼はノーベル平和賞にノミネートされました。

この話を聞いて、「合法化でノーベル平和賞? 規制ではなく?」と思われる方もいらっしゃるでしょう。私たち日本人にとってマリファナは決して身近なものではないため、「そんなものを合法化したら麻薬中毒者を増やすだけだ」と考えるのが一般的です。

しかしウルグアイでは、すでに多くのマリファナが取り引きされ、消費もされている状況でした。つまり、その気になれば、いつでも手に入れることができる身近なものだったのです。そんな状況の中で、マリファナを全面禁止したら何が起こるか…それは、『犯罪組織による密売』です。

これは大きな問題です。なぜなら、マリファナが密売されるようになれば、『中毒者を救うことができない』からです。麻薬中毒から救うことより、犯罪組織から救い出す方が難しいということです。特に若い世代は、禁止されているものに魅力を感じてしまう傾向にあるので、禁止するのではなく、あえて合法化して、生産量や流通量を管理し、誰が、どの程度消費しているのかを把握するという意図があったのです。

つまり、ホセ・ムヒカ氏が目指したのはマリファナを『合法化』することではなく、『管理』することだったのです。そうすることで、中毒者を早期に発見し、且つ、消費者を犯罪組織に近づけない仕組みを作ることが狙いだったのです。

考えてみれば、私たちは、「これをしてはいけない」、「あそこに行ってはいけない」という規制という名のルールの中で育ってきたような気がします。社会においては、確かにルールは欠かせないものです。場合によっては強い規制が必要な時もあります。ですが、何もかも押さえつけるばかりでは、反動も起こります。そうなれば、お互いにストレスを抱えるだけで、何も解決しません。

たとえば、業務のオペレーションが悪いからといって、1から10まで診察手順を規制しても、必ず守られるとは限りません。決められたオペレーションでは、ある特定のスタッフに負荷が掛かるのかもしれませんし、スタッフは効率が悪いと感じているのかもしれません。そのような状況下では、見えないところでルールを犯すスタッフが出てくるのは自然な流れでしょう。なぜオペレーションが乱れるのか、その背景を知らないまま押さえつけても、見えないところに歪みが生じるのです。

大事なポイントだけを決めて、残りはスタッフの裁量に任せた方が、実は最善のオペレーションが組める場合もあります。そうすることで、スタッフが抱える問題を解決できる可能性もあるのです。

大切なのは、すべてを『規制』することではなく、問題が生じる背景を『管理』することです。

仕事に限ったことではありませんが、ルールを定める目的は、他人の言動を規制することではないはずです。ルールとは、関わる人々が、より快適に、ストレスなく過ごすためのものです。

もし、医院で定めたルールで、なかなか守られないようなものがあるなら、一度『規制』から離れて、『管理』するという視点で見直されてみては如何でしょうか。

▼参考文献
・「ホセ・ムヒカと過ごした8日間 世界でいちばん貧しい大統領が見た日本」くさばよしみ著/汐文社
・「世界でもっとも貧しい大統領 ホセ・ムヒカの言葉」佐藤美由紀著/双葉社
執筆者:DR’S WEALTH MEDIA編集部
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