『ディズニークオリティー』は、どう受け継がれてきたのか
2017.03.22
ディズニーランドに学ぶ『スタッフへの仕事の頼み方』Vol.2
まず、ひと言でディズニーランドといっても、アトラクションやレストラン、パレードの運行やセキュリティ部門、カストーディアルと呼ばれる清掃チームなど、実に多くのセクションがあります。さらに、アトラクションやエリアによってチームが細かく分かれており、それぞれをリーダーがまとめています。
その最小単位のチームごとに、朝礼と終礼が毎日実施され、そこで情報の共有がされているようです。スケジュールによっては、リーダーの他にキャストが1名しか出勤していない場合もあるようですが、それでも朝礼・終礼は必ず実施されるほどの徹底ぶりです。
しかしここまでなら、それほど特別な話でもありません。毎日欠かさず朝礼・終礼を行っている企業というだけなら、他にいくらでもあります。
ですが、ディズニーランドにおいて特筆すべきは、その内容です。たとえば終礼では、その日の実績や課題、後日のスケジュールなどが共有されます。ここまでは、他の企業と同じですが、決定的に違うのはここからです。
1つの事例をご紹介しましょう。
これは、大学1年生の春、憧れのディズニーランドでキャストデビューを果たしたある女性の体験談です。数日間の新人研修を終えた後、彼女が配属されたのはキャラクターショーが見られるレストランのスタッフでした。ゲストとして訪れたことはあったものの、キャストとして中に入ると、見える景色はまるで違っていたといいます。
さらに初日ですから、メニューも分からない、ゲストの案内もできない、どこに立っていいかさえ分からない…。もはや緊張で立っているのもやっと、といった状況だったそうです。そんな彼女に与えられた最初のミッションは、『ゲストと一緒にショーを楽しむこと』でした。拍子抜けした彼女は先輩キャストに、
「ゲストに声をかけられたらどうすればいいですか?」
と尋ねたところ、帰ってきたのは、
「私が対応します。〇〇さんは、思いっきりショーを楽しんでください」
という答え。落ち着かないながらも、彼女はショーを楽しむことにしました。目の前で嬉しそうにはしゃぐ女の子の姿を、幼いころの自分に重ねながら、、、
そしてその日の終礼のとき。「〇〇さん、ゲストと一緒にショーを楽しめましたか? ぜひ、感想を聞かせてください」と、いきなり発言を求められたのです。予想外の展開に慌てましたが、幼い女の子が昔の自分に重なったこと、どれほどこの日を楽しみにしてきたのか伝わってきたこと、その子の思い出のために何ができるのか考えたことを話しました。すると、チームのみんなが温かい拍手を送ってくれたそうです。
オペレーションを習得することでも、メニューを覚えることでもなく、目の前のゲストが、今日という日をどれだけ楽しみにしてきたのかを知ること。それを教えるためのミッションだったのです。そして、それに気づいた彼女への拍手だったのです。
さらに翌日、そのことは、他のチームの朝礼でも共有されました。「彼女が感じたことを、私たちは忘れかけていないか。もう一度、初心を取り戻すべきではないか」と。
彼女は、それによって自分が与えられた仕事の価値を知り、評価を受け、認められたことを知りました。そして、彼女にとっての大きな自信となり、いつか後輩を教える立場になったら、自分も同じことをしてあげようと心に決めるきっかけとなったようです。その後、彼女は大学を卒業するまでの4年間、ディズニーランドでキャストとして活躍しています。
単に指示をするのではなく、事務的に仕事を頼むのでもなく、その意味を伝え、評価し、成果を共有する。
大半がアルバイトスタッフ、しかも20,000人という大所帯の組織で、どのようにディズニークオリティーが受け継がれてきたのか。この朝礼・終礼だけを取っても多くの秘密が隠されています。『夢の国』から学べることは、まだまだありそうですね。
・「9割がバイトでも最高のスタッフに育つ ディズニーの教え方」福島文二郎 著/中経出版
・「社会人として大切なことはみんなディズニーランドで教わった」香取貴信 著/ゴマブックス
・「社会人として大切なことはみんなディズニーランドで教わった II 熱い気持ち編」香取貴信 著/こう書房
・「ディズニーランド伝説のトレーナーが明かす ミッキーマウスに頼らない本物の指導力」町丸義之 著/こう書房