数字による公平性と、一人ひとりと向き合う努力
2016.08.03
眞鍋監督に学ぶ女性マネジメントVol.2
今でこそ、チームを1つにまとめ上げ、オリンピックで2大会連続のメダルを狙うまでに成長させた眞鍋監督ですが、女子チームの監督に就任した当時は、気苦労が絶えなかったといいます。
「男女の違いがあるとはいえ、同じバレーボール。多少勝手は違っても、環境の変化には対応できる
そう考えていたのも束の間、男女の根本的な違いを就任早々味わうことになったのです・・・
ある日、強打のレシーブが苦手な選手に監督がスパイクを打って個人練習をさせていたときのこと。それを見ていた1人の選手が眞鍋監督に、
「監督は1人だけ特別扱いしている」
と言ってきたそうです。男性の視点で見れば、単に個人の弱点を補強しているだけのこと。それは当然のことであり、気にすることではありません。ところが女子チームでは、指導する立場にある監督やコーチが、ある特定の選手だけに練習時間を割くことは公平性に欠ける、と解釈するというのです。分かりやすくいえば、えこひいきしている、と捉えるのです。そしてその感情は、方向性を間違えれば『妬み』に発展します。それがチーム全体に蔓延するようなことになれば、取り返しのつかないことにもなり兼ねません。
その1件から眞鍋監督は、個々の練習時間だけでなく、他愛のない会話さえ特定の選手に偏らないように気を配ったといいます。
とはいえ、選手の起用法などに対して、他意はなくともえこひいきと捉えられてしまう可能性もあります。
「誰もが納得できて、チームに公平感をもたらすものはないか・・・」
そう考えてたどり着いたのが、『数字』でした。数字はウソをつきませんし、ごまかすこともできません。えこひいきだ、などという感情が入り込む余地もないのです。数字に基づいたデータを公表することで、誰の目にも優劣が明確になります。それだけではありません。各個人の、そしてチームとしての課題も明確になるのです。
選手たちは、自分の実力が数字で公表されることに抵抗を示しました。しかし失敗の原因が解明でき、練習の成果が反映されていくことが分かりはじめると、やがて自ら興味を持つようになったといいます。今回のオリンピック予選でも、調子の悪い選手を迷わず交代させるシーンが何度もありましたが、それもこの『数字』があってこそ、ではないでしょうか。
しかし一方で、眞鍋監督はこうも言っています。
「数字は非常に有用だが、万能ではない。数字に表れなくとも、チームに好影響をもたらす選手を見落としてはいけない」
数字を使って公平性と客観性を保ちながら、選手一人ひとりとも正面から向き合う。この姿勢、考え方がチーム全体を1つにまとめ上げ、苦しい戦いを勝ち抜き、オリンピックへの切符を手にする結果につながったのでしょう。
女性スタッフの力を借りながら、選手の髪形や髪の色を観察し、わずかな変化に気付こうと努力する日々。
「あの選手、髪形変えましたよ」
と女性スタッフに教われば、あたかも自分で気付いたかのように、その選手に向かって
「お、髪形変えたやろ?」
と声をかけたりする気遣いを見せるチームの将。選手たちは、そんなことにも気付いているのではないでしょうか。そうでなければ、
「この人(眞鍋監督)のために!」
なんて言葉が選手たちから出てくるとは思えません。
これは、スポーツチームの監督だからできることなのでしょうか。評価制度によって各スタッフの貢献度を数値化し、客観的に評価する。その上で、一人ひとりと向き合い、チームとして1つにまとめ上げる。このように、医院に応用することは難しいでしょうか。
数字を使った公平性の実現と、一人ひとりと向き合う努力。女性マネジメントの本質は、ここにある。そんな気がしませんか?