インタビュー

世界から信頼を得る一着を仕立て続ける老舗テーラー

2019.06.21

テーラーまなべ:真鍋 惠勇氏インタビュー

多くの世界大会で1位に輝き、「高松宮殿下技術奨励賞」受賞ほか国内でも高い評価を得てきた「テーラーまなべ」代表の真鍋 惠勇氏。
御歳84歳ながらも、未来を見据え走り続ける真鍋氏に生い立ちから跡継ぎの話、将来の展望までを聞いた。

【プロフィール】
●真鍋 惠勇 (まなべ やすたけ)
1935年11月10日生まれ。岐阜県出身。岐阜市内で洋服店を営んでいた義兄のもとで腕を磨き、22歳で東京へ。そこから頭角を現し、テーラー世界大会での優勝や高松宮殿下技術奨励賞受賞、黄綬褒章受章ほか、多くのコンクールや栄誉ある賞を獲得した実力者。幾多のテレビ番組にも出演するなど活躍中。

寝る間を惜しんでの勉強が実を結びその技術は世界へ

― 真鍋さんはどちらのご出身ですか?

真鍋 惠勇氏(以下、真鍋)「岐阜県です。長良川のほとりで幼少期を過ごしました。子供の頃から工作が好きでね。将来は宮大工になりたくて、高山市や京都に通って就職したいと頑張ったのですが、中学を卒業したばかりの子供で、しかも戦後でしょう。どこにも就職口はありませんでした。そこで当時、岐阜市内で洋服店を営んでいた義兄に『大工の働き口が見つかるまでうちで働け』と言ってもらったのが、テーラーの道を選んだ始まりですね」

― 東京へはいつ頃出て来られたのですか?

真鍋「二十二歳になる年です。結局、義兄のところで六年ほどお世話になったのですが、田舎町とはいえ、それなりのいい仕事はできていると自負していました。しかしある日、大阪に全国のテーラーの技術コンクールを見に行ったんです。優勝された銀座のお店の背広が素晴らしすぎて、頭をガーンとやられましたね(笑)。井の中の蛙でした。『日本一になるためには東京に行かないとダメだ』と、上京したのです。しかし、銀座、虎ノ門、江戸川…その頃コンクールで入賞していた名だたるテーラーに働かせてほしいとお願いしましたが、なかなか就職口は見つかりませんでした。そんな時に、日本一の素晴らしい仕立ての技術を持つ方が四谷で独立されたと聞いたのでお願いしに行き、無事にそこで修業させていただけるようになったのです」

― 修業時代はどのように過ごされていましたか?

真鍋「当時、私と同じように修行している弟子が六名ほどいたんですが、皆が一時間休憩すれば、私は三十分。皆が毎日風呂に行くところ、私は一週間に一回…とにかく、休憩時間や寝る間も惜しんで勉強していました。そのおかげで『全日本コンクール』というものがあったのですが、日本各地から一千着ほど背広が集まるなか、二十六位になったんです。目標にしていたあこがれの先輩がいましたが、一年半で抜いちゃいましたね(笑)。約十年そこでお世話になって、その後、独立したのです」

弟子に厳しくする前に常に自分にも厳しく

― 現在、二人のご子息が「テーラーまなべ」で働いてらっしゃいます。「跡を継いてほしい」といったお話はされていたのでしょうか?

真鍋「いえいえ。二人とも自分の意思で修業に来ました。子供の頃から仕事場に遊びに来ていて、彼らにとってはミシンが遊び道具みたいなものでしたから(笑)。長男は中学校の作文で『将来は、お父さんみたいな手作りの洋服屋さんになりたい』と書いていましたね」

― 親子から、師匠と弟子の関係に変わる際に、やりにくさなどはなかったでしょうか?

真鍋「貴乃花のケースではありませんが、うちに来た瞬間から親子ではなくなりましたね。息子たちも、何に対してもいっさいの口答えはしませんでした。私は四歳の時に父親を亡くしていますので、息子たちにはひもじい思いはさせたくないと何でも欲しがるものは与えて育ててきましたが『ここに就職したい』と言ってきたからには、常に一番を目指しなさいと厳しく指導してきました。おかげさまで、長男が三年で日本一の作品を作りました。その後、第三十一回世界マスターテーラーベルリン大会 第一回技能グランプリで第一位も獲得しています。もちろん、彼らに厳しくする分、自分にも厳しくしています。例えば、襟を取り外せるようにして、タキシードとしてもフォーマルなジャケットとしても使える一着を作ったり、常に新たなアイディアを考えてきましたし、我ながらよく働いてきましたよ(笑)」

― どこかほかのお店で経験を積ませてからといったお考えはありませんでしたか?

真鍋「〝よその釜の飯を食べる〟という言葉がありますが、私も賛成です。しかし我々の業界に関しては、息子たちが就職する頃には時代が変わり、きちんと修行できるようなテーラーはすでにありませんでしたね。他の弟子たちと競争も出来ないような中途半端な環境では、ぜったいに成長はしませんから」

― これからスーツを仕立てたいという方にアドバイスはありますか?

真鍋「ネックポイントと言いますが、一番重要な『首』の採寸ですね。ここがずれると皺になったり、フィットしなかったり、ひどい仕上がりになります。『テーラーまなべ』では、私が考案した〝マスタースケール〟という採寸機を用いています。同じ〝胸囲一〇〇センチ〟でも、丸型の方もいれば、横長の方もいらっしゃいますので、体型をきめ細かく把握し、一番大切な正確な型紙づくりを実現した裁断を心掛けています」

― 真鍋さんの今後の夢や展望をお聞かせください。

真鍋「私の信念は『田んぼの真ん中で商売していても、山のてっぺんで商売していても、とにかく来ていただけるテーラーを』なんです。幸いこちらで五十年以上ですが、高松宮賞をはじめ、世界の洋服の賞をほぼ総なめさせていただいて、全国はもとより世界からもたくさんのお客様が来てくださいました。しかし息子たちの代になる今からは、ほとんどがイージーオーダーや既製品の時代。さらにこの商売は厳しくなってくると思っています。ですので、もう少しリーズナブルにフルオーダーのスーツを楽しんでいただけるようにして、若いお客様を我々が育てていくんだという気概を持って、引き続き取り組んで行けたらと思っています」

 

真鍋氏考案の“マスタースケール”と襟の取り外しが可能なタキシード

 

テーラーまなべ
https://www.tailormanabe.com/

住所:東京都杉並区荻窪2-41-16
TEL:03-3391-8135
時間:9:00~19:00 定休日:日曜

 

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