インタビュー

院長とスタッフが目的意識を共有できると、組織として成長していきます

桐田氏インタビュー

2015.11.24

人事コンサルタント 桐田博史氏インタビュー

院長といえども、スタッフから見れば経営者。組織づくりを行うことも仕事といえます。そして、その肝となるのが採用と人事です。「診療」と「経営」をバランスよく両立するためにはどうすればいいか? 人事コンサルタントとして、採用する側にも、採用されたい側にも詳しい、桐田博史さんに聞きました。
【プロフィール】
●人事コンサルタント
ブライトゲート株式会社代表。大学卒業後、本田技研工業株式会社で労務・人事育成・採用などを経験。その後ヤンセンファーマ株式会社に転じ、その後、採用部門の責任者に。2014年にブライトゲートを設立。製薬企業や薬局の採用活動や大学の就職課のサポートを行う。

採用時に注意すべきポイントは3つ

——新たにスタッフを採用する時、気をつけておくべきポイントは何でしょう? 特に法律的に気をつけなければならないことなど教えて下さい。

桐田博史氏(以下、桐田):すべての説明を始めたら、それだけで本が書けるくらいですので(笑)、ポイントを絞って説明します。注意すべき場面は3つ。

“募集要項”“面接”“採用決定”です。まず“募集要項”について意外と知られていないのが、一部の例外を除いて募集時に年齢制限や性別制限をしてはいけない、ということです。

——募集広告ではよく見かけますが?

桐田:法律的にはダメなんです。採用するかどうかは、もちろん雇用する側が決めればいいのですが、門戸はすべての人に開かれていなければいけません。

——そうなんですね。では“面接”は?

桐田:質問してはいけないこと…というか、質問しない方がいいことがあります。具体的にいうと、出生、容姿、思想・信条、そして家族や親族の個人情報など。

これらのことを質問項目に挙げることは少ないと思いますが、面接時の流れで聞いてしまうことがあるんですよ。例えば、“新聞は何を取っていますか?”とか。

——新聞は印象が変わりますね。

桐田:仮に不採用の理由がほかにあったとしても、“新聞は何? という質問に応えたことが不採用の原因だ”と考えられることもある。そうなると後々、問題になることがあるんですよ。

——なるほど。出生に関することなどもナーバスな問題ですものね。

桐田:だから聞くとしても都道府県レベルに留めておく。これはリスクを回避するという意味で、大事なことなんです。

——健康面なども気になるところです。

桐田:でも、採用にあたって健康診断を受けて下さい、というのはダメなんです。健康面の理由を採用の判断基準にしてはいけません。もちろん採用が決まった後で、勤務状況などを配慮するために健康診断を行うことは問題ありません。

——続いて“採用決定”した後は?

桐田:“労働条件の明示”です。意外とやってないところが多いんですよ。

——勤務時間や勤務地などについてですか?

桐田:そうです。あと給料や有給休暇などですね。これらは口頭ではなく、書面なりメールなりで明示しなければならないんです。特にこぼれがちなのが、有給休暇や残業、勤務のシフト体系ですね。これらをオープンにしなければならないことは、法律で決まっていることです。

——確かに扱いを間違うとトラブルになりそうですね。

桐田:聞いていたことと違う…とかね。だから必ず書面に残しておくことが大事です。女性の場合ですと、妊娠・出産・育児にまつわることが多いですね。

従業員エンゲージメントという考え方

——では、そういうトラブルを回避するには、どうすればいいのでしょう?

桐田:女性が多い職場で問題になりやすいのは結婚や育児についてのこと。それによって休業することになったり、場合によっては退職ということもあります。しかし、これは起こり得ることと想定しておくしかありません。つまり事前に策を講じておくことですね。

——具体的にはどうすれば?

桐田:例えば仕事を分担するときに、その人にしかできない仕事をつくらない。全員でカバーし合えるようにしておけば、フォローすることができますよね。

——ただ、小さな組織はひとつの仕事を同じ人が長年担当しがちですよね。

桐田:そうではなく、チームで仕事をするということが大事なんです

——それを理解してもらうためには、モチベーションが必要だと思いますが?

桐田:最近の言葉で“従業員エンゲージメント”という言葉があります。簡単に言うと、経営者も雇われる側も、目的意識を同じにするということです。これは、とても大事なこと。

雇われているという意識が高いと、“急にやめてもいいよね”ということもあるんですが、組織のことを自分のことだと思っていれば、やめなければいけない場面になっても、どうすればチームに迷惑をかけずに済むかを考えるようになるんです。

——つまり“自分ごと”にするということですね?

桐田:そうです。それこそが人事の根幹だと思っています。労使関係ではなく、一緒に病院という組織をつくっていこうという意識を醸成していくことが大事。

——経営者が考える方向性に対して、同じ目線を持つようにすることですね。

桐田:言うは易しで、難しいことです。方法として考えられるのは、権限委譲です。この仕事は任せるから、やり方を考えてみて、ということだと思います。

桐田氏インタビュー

——でもそれだと、先ほどの“その人でなければできない仕事をつくらない”ということに矛盾しませんか?

桐田:そのバランスが難しいところですが、それこそが人事の妙なんです。少なくとも“言われたからやる”ではなく、“自分がこうした方がいいと思うからやる”に持っていく。

そして、そんな人が現れたらリーダーにしてみると、いい組織ができるんじゃないかと思います。

中途採用は経験、新卒採用は好奇心を見る

——医療業界は中途採用が多い。すると、それまでにつくってきた組織に影響はありませんか?

桐田:中途で入って来る人に言えるのは、スキルの高い人が多いということ。キャリアアップを目指して転職するわけですから、ある意味、当たり前です。でも、それと組織になじむかどうかということは、別の問題ですよね。

——面接時にそこを見極めるには、どんなことを聞けばいいのでしょう?

桐田:仕事に対して、どんな考え方で向き合って来たかを聞くことが大事です。つまり、採用側が考える“従業員エンゲージメント”に共感してもらえる人材であるかどうか、ということです。

——面接で、そこまで聞き出せますか?

桐田:聞きやすい内容ではないですが、ここは妥協すべきじゃありません。できる限り、細かく聞くことが大事。“これから何をやりたい”ではなく、“これまで何をやってきたか”“なぜ、そういう考え方で仕事をしたのか”を聞く。それによって、その人の人物像や行動特性が見えて来ると思います。

——なるほど。場合によっては複数回の面接も必要かもしれませんね。

桐田:細かく聞かなければ、その人のプライドを汲み取ってあげることもできないと思います。先ほど中途採用はキャリアアップという話がありましたが、中にはそうでない人もいます。選別する意味でも詳しく聞くことですね。

——新卒採用で注意すべきことは?

桐田:好奇心を持っているか、ということが一番です。人は、吸収しなければ成長しません。吸収するためには好奇心が必要なんです。私の経験から言っても、成長する幅の大きな人は、いろいろなものに興味を持っています。

——アンテナを広く張っていれば、引っかかるものも多いですからね。

桐田:そして引っかかった時に、いかに食いつくか。そういう意味での好奇心を持っている人が伸びる人ですね。そしてもう一つ大事なのは“素直”であること。吸収力が違うんです。

——それを面接で見極めるのも難しくないですか?

桐田:サークルでもアルバイトでもいいのですが、それらにどのように関わって来たかを聞くんです。例えば課題を見つけて対応した、など主体的に関わっていれば、判断基準の一つになると思います。

——ゼロスタートの新卒も、高いスキルを持つ中途もいる…やはり組織づくりは難しいですね。

桐田:だから“従業員エンゲージメント”に尽きると思います。組織としての一体感を醸成するということです。

——そのためには、どうやって人材を育成するかですね?

桐田:どんなタイミングで仕事を任せるか、ということは本当に綿密に考える必要があります。その際のポイントはゴールを設定すること。

たとえスタッフそれぞれのステータスが違ったとしても、組織として成長すべき方向性が共有できていれば、それほど問題になることはないと思うんですよね。

458件の開業医を成功に導いた成功事例集