商用版も出た量子コンピュータの今後に期待
2019.10.06
量子力学を応用した量子コンピュータに見える未来のAI像
水素のHから始まる元素記号の周期律表は、中学や高校の履修範囲にも含まれている内容ですが、理論物理学の先端を行く量子力学の世界では、最も簡単な元素と言われている水素でも電子と陽子と中性子と言われる3つの量子に分けられるとされています。
この量子を利用して最適な演算を行わせることを目的としたコンピュータが、近年様々なメディアで特集されている量子コンピュータと呼ばれるものです。
量子コンピュータが開発されていくとどのような未来になっていくのでしょうか?
古典力学とは全く違う世界の量子力学
慣性の法則や運動エネルギーなどの今ある世界の物体がどのような動きをするのかということを研究した学問「古典力学」は、スピードや運動に関する分野など、日常生活でもよくあることを理論的に説明する内容であるため、イメージしやすく、ほとんどが高校の物理等の履修範囲に含まれています。
しかし、古典力学で地球全体、宇宙に関するものまで理論的に説明しようとするとどうしてもその理論が適用できない現象が出てくるようになりました。例えば、天然に存在するウランは、放射線を放っています。また、天体観測をしても一か所だけ真っ暗な部分があるといったものです。
こうしたものを研究していくと、原子量の多いウランは自分で物質としての存在を続けることが難しく、ちょっとしたことをきっかけに核が崩壊してしまうということがわかりました。さらに宇宙には、光をも飲み込んでしまうほど強い重力場(ブラックホール)があるということもわかりました。
これらの現象を理論的に説明すべく、直接目で見ることが難しいほど小さな物質の運動を研究する学問が量子力学と言われています。
量子力学は非常に難解!
ウランの核分裂は、原子力発電に応用されていたり、宇宙での重力場の研究も宇宙開発にも役立っています。このように、量子力学は様々な先端分野で応用され、社会に貢献しているのですが、その理論は非常に難解です。大学レベルの専門的な数学の知識が必要となり、すべてを理解するのは専門の学者でもない限り不可能と言われています。
量子コンピュータの計算方法
量子コンピュータは原子力発電や宇宙開発と同じように、情報処理の分野でも量子力学が活用されています。量子力学を使っていても、コンピュータという名が付くからには、量子コンピュータは計算するための機械なのですが、その計算方法が今までのコンピュータとは全く異なっています。
従来のコンピュータは電気信号を用いて、数学や算数の四則演算などの「答えが1つ」の問題を解くということを繰り返しています。例えば、気象予報などを行うスーパーコンピュータは与えられた条件と今までの統計データにより何十万通りのシミュレーションを行って、降水確率などを割り出します。しかし、この方法では、ゲリラ豪雨などの局地的な大雨などの予測は困難であるといわれています。
一方で、量子の動きの中にはある条件を複数入力すると、最適な状態に落ち着くというものがあります。これを応用して、気象条件と同じ動きをする条件を複数入力すると、最も可能性のある予報が導き出され、この量子の動きの速さは、スーパーコンピュータで何万通りの計算を行わせた結果よりもはるかに高速なため、量子コンピュータは予測をさせるのに最適だといわれているのです。
量子コンピュータはAIの高速化に期待されている
量子コンピュータは予測や、複数ある中から最適な方法を見出す計算を得意としているため、AIによる演算と親和性が高いとされています。
そのため、現在のコンピュータよりも高速計算が可能と言われている量子コンピュータの開発、普及が進めばAIの性能が向上すると期待を寄せられています。
最近は医療現場での診断結果を医師が判断する際に、AIによる判断を活用しているような現場が多くなりましたが、AIは多くの演算を一度に行って判断するためどうしてもその性能の限界があり、人間のような判断をするまでには至っておらず、一部分に特化したAI診断が可能な状態にとどまっています。
現在の性能よりも高速化された量子コンピュータが標準化すれば、医療現場でのAI活用がますます増えていき、人間と同等レベルの判断能力を持ったAIが登場する日が来るかもしれません。
量子コンピュータの開発状況
そんな量子コンピュータですが、現在の開発状況はどのような状況なのでしょうか?
2019年1月に、IBMが世界で初めての商用量子コンピュータ「IBM Q System One」を発表しました。このシステムでは、電気抵抗が0となる超電導状態で僅かな量子の動きを観測しています。
今後の課題としては、観測の誤差をなくしていくための技術開発と、現状のマイナス270度という超低温状態で発生する超電導状態を維持するというコストがかかる方法ではなく、別の方法での量子の観測ができるコンピュータの開発も待たれています。
商用版も出た量子コンピュータの今後に期待
理論を聞いても理解が難しい量子力学ですが、日々開発が進められ、その技術は一歩ずつ進歩しています。こうした技術や一見関係なさそうな理論が、医学や日常生活を便利にしていくという事実に目を向けてみるのもまた面白いのではないでしょうか。