将来の相続に向けた養子縁組の活用方法
2017.10.16
実子がいない開業医が知っておくべき「養子縁組」の仕組み
■相続を考えるタイミングとは
自分が亡くなった後を考えて、財産の整理や葬儀の在り方などを検討する「終活」は、すっかり定着しています。終活ではさまざまな財産を把握して、どう処分するか決めるわけですが、自営業者なら事業をどうするかも決めなければいけません。
相続を考えるタイミングは、会社員であれば、定年退職後に考える場合が多いですが、開業医の場合は定年がないため難しいところです。病院を存続するなら、事業承継の手続きがありますので、遅くとも60代前半から相続を意識した終活に着手したいものです。
特に、自分に実子がいない場合、形成した財産の引継ぎや養子縁組の手続きなども加わるため、さらに早い段階から相続手続きを見据えた終活を開始する必要が出てきます。
■開業医として考えておくべきこととは
平成19年4月以降設立の「出資持分のない医療法人(以後:新医療法人)」を継承する場合を除き、医院の財産は相続税や贈与税の課税対象となるため、技術や理念のみではなく医院の資産を誰にどのように継承していくのかを事前に考え、対策を打っておく必要があります。
後継者となる実子のいない開業医ともなれば、その医院を必要とされる地域住民のためにも、医院を存続させる方法を模索する責任が出てくることでしょう。そのためには、養子縁組も含めた第三者継承を検討する必要が出てきます。
親族間であっても、遺産分割でも、医院継承が困難になるケースも珍しくありませんので、第三者への譲渡ともなれば事前準備は必須です。事前に行うことによって、暦年贈与等取れる方法も多くなりますので、まだ若くて元気だと思えるうちから準備を始められることをお勧めします。
平成26年度の税制改正により「出資持分のある医療法人(以後:旧医療法人)」から新医療法人への移行計画の認可や持分の放棄などの一定の要件を満たすことで、相続税・贈与税が免除される制度が出来るなど、制度も年々変化しています。
旧医療法人から新医療法人へ移行したことで、次の継承時期に後継者が見つからず結局残余財産を国に持っていかれたなどと、目の前の問題解決にばかり気を取られると根本的な解決に至らないケースも多く見受けられます。問題を先送りにしただけにならないよう、総合的かつ長期的な視点での判断が求められるのです。
■財産を遠縁の親戚や国に渡さなくて済む養子縁組の手続きは簡単
実子がいない人が亡くなった場合、遺産はすべて配偶者が相続しますが、配偶者もいない場合もあります。実の親が健在なら親がすべて相続します。親が既に亡くなっている場合は、亡くなった人の兄弟姉妹が、もしその兄弟姉妹が既に亡くなっていた場合には、その子ども、亡くなった人の甥や姪が相続します(代襲相続)。
そして、もし相続人がまったくいなければ、財産は全部国庫に行くことになります。
相続では子どもが絶対的な権限を持っています。昨日生まれたばかりの0歳児でも、30歳でも、実の子どもというだけで無条件に相続権があるのです(ただし、自分が有利になるように他の相続人を殺したり、被相続人に無理やり遺言書を書かせたりした場合は、たとえ子どもでも相続権を失います)。
逆に言えば、両親が死亡しており、実の子どももいない場合は、ほとんど交流がなくても甥や姪が相続する可能性が出てくるのです。
養子縁組をうまく活用すれば、そうした事態を避けられます。手続きは簡単で、住所地の市区町村役場に、養親、養子の戸籍謄本、届出人の印鑑、本人確認書(運転免許証など)を持参し、養子縁組届を提出すれば完了です。
ただ養子縁組届に成人2名の署名・捺印が必要だったり、養子が養親の尊属(父母以上の世代)や年長者でないことなどの条件があったりするので、事前に確認しましょう。
養子縁組が成立すると、実の親子とまったく同じ権利義務が発生します。養親が亡くなった場合、養子が財産を相続できます。しかも養子になった人は、実の親との親子関係はそのままですから、仮に実の親が亡くなった場合も相続権があります。
このような養子縁組制度を利用すれば、相続税がかからない基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人)を考慮に入れて、節税対策を行うことができます。しかも、幼児の時に手続きを行い、実の親との関係を完全に解消する「特別養子縁組」の場合、法定相続人に参入できる数に制限はありません。
しかし、通常の養子縁組の場合、法定相続人とする養子の数には、以下のような制限があります。
・被相続人に実の子どもがいる場合、養子は1人まで
・被相続人に実の子どもがいない場合、養子は2人まで
つまり、養子縁組制度を使って不当な「相続税対策」をしないために、通常の養子縁組については、厳しい縛りあるのです。
上記のように、法定相続人に実の子どもと養子がいる場合、あるいは養子が複数いる場合には、自分が亡くなった後で相続トラブルが起きないように、遺言書を作成しておくことも重要です。