相続が一転、争族に? 医業承継の落とし穴とは
2017.05.08
基礎控除額引き下げで相続税がより身近に
具体的にどう変わったのかを復習すると、法定相続人が3人(配偶者と子ども2人)の場合、以前は基礎控除額が8,000万円でしたが、前回の改正により4,800万円以上の財産があれば相続税の課税対象となり、このケースでは従来よりも、3,200万円も課税対象となるラインが下がったことになります。
これにより、課税対象となる割合は4.2%(平成24年当時)から6~8%まで拡大すると言われており、特に地価の高い東京23区内では、4人に1人が課税対象となるという試算が出ているほどです。
■医業承継にも暗雲?
自分には関係ないと思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、病院の不動産や医療機器等が思いがけない評価額となる可能性があります。現金であれば均等に分けることが可能ですが、相続税の課税対象となるのは、そのようなものばかりではありません。
たとえば、子どもが複数人いて、その中の1人が医院を承継する場合、医院以外に他の相続人が相続できる財産がなければ、遺産分割をするために医院の土地や建物を手放さなくてはならないことも考えられます。
後継者がいても、相続によって医業承継の道が絶たれてしまうことは珍しくありません。加えて、誰が継ぐのかに関して合意を得られていても、財産分与で親族が揉めて「争族」になってしまう可能性もあるのです。
■生前贈与の活用
生前贈与は、相続税対策としては有効だといえるでしょう。これは、生前に財産を移転し相続財産を減らすことにより、相続税を押さえるというものです。
贈与税の年間基礎控除額は、110万円となっています。年間の贈与額が年間基礎控除額110万円以下であれば贈与税が課税されないため、無税で贈与できる事前対策として効果的な方法でしょう。しかし、贈与後3年以内に死亡した場合は相続税に加算されるため、早い時期から対策を始めておくことが重要となります。
他にも、資金に余裕がある場合には相続時精算課税制度など2,500万円までの非課税制度を利用し、病院を承継しない子どもに事前に渡しておく方法も検討の余地があるでしょう。贈与に関しての生前対策は、最近の税制改正でかなり優遇されています。
住宅取得資金贈与の特例、結婚や子育て、教育資金一括贈与の特例など、親族間で行える生前現金移転制度の利用が活性化しています。
その一方で、申込期間が限られていたり、領収書の提出が必要だったり、決められた使途で期限内に使い切れなかった部分には贈与税がかかったり、そもそも都度贈与で事足りる内容であったりと、制度利用後後悔したが後戻りできなかったなどという声も聞かれますので、事前に受贈者とも話し合い、今後の計画をきちんと立てることは不可欠です。
■相続税への対策
不動産や株式など、収益を生む資産をお持ちの方は、資産管理会社(プライベートカンパニー)を設立することも有効です。通常、個人で年間の所得が4,000万円を超えると所得税率は45%となりますが、法人であれば、2016年度の税制改正に伴って法人税率が2016年4月1日時点で23.9%から23.4%に、2018年4月1日以降は23.2%まで引き下げられており、個人よりも税制面で優遇される傾向にあると言えます。
また、単に収益を法人に貯めておくだけではなく、法人保険を利用して、損金を出しながら退職金を積み立てることや一定の年齢に達したお子様を役員に入れ給与を支払うことなども考慮に入れると、検討の余地がある方も多いのではないでしょうか。
株式会社という形式で資産管理会社を設立した場合には、株式を後継者に110万の非課税の範囲内で暦年贈与を行い、生前に相続対策を完了させることも夢ではありません。また、均等に分割することが難しい不動産などでも株式という形で贈与することで、平等に分けられるというメリットもあります。
ただし、煩雑な手続きを伴い、長期的な視点で考え計画を立てる必要性がありますので、一度専門家に相談されることをお勧めします。
納税資金準備対策としては、相続税納税時の資金を確保するために、死亡時に相続人に対し保険金が支払われる形態で生命保険に加入することが有効です。
資産の大部分を流動性の低い資産が占めているようなケースにおいて、納税資金を捻出することができない状況になることを予防できる上に、保険金は非課税の範囲が別途設けられているため、税金そのものを減らす効果もあるのです。これらを組み合わせることにより、効果的な相続税対策が可能となります。
相続税対策を行うことで、現状の資産の把握と、所得税対策を同時に行うことができます。今後家族を守るためにも一度じっくり検討し、より有意義な方法を模索していきましょう。