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落ち着いて税務調査に対処するには

税務調査

2017.02.22

開業医が「税務調査」について知っておくべきこと

税務調査は、もう慣れているという開業医の先生がいる一方、初めてという先生や、以前に苦い経験をお持ちの先生など、うまくやる自信がないという先生もいらっしゃるのではないでしょうか。

そこで今回は税務調査の流れや注意点などをご紹介していきます。税務調査に落ち着いて対応するための手助けになればと思います。

医院に税務調査が入るタイミング

税務調査と言っても、例えば映画やドラマのように、いきなり乗り込んでくるようなことは滅多になく、税務署から連絡が来たら、顧問の税理士事務所に連絡を入れ、スケジュール調整や相談をして臨めば大丈夫です。

■税務調査のタイミングと論点

ところで、税務調査は、どのくらいの確率で、どんな論点で入るのでしょうか?

大きく分ければ、3つの論点があります。

1. 周期的な要因の場合
2. その年・その署などで注目論点がある場合
3. その納税者に個別の注目論点がある場合

1. 周期的な要因の場合

ある程度以上の法人には、3~7年に一度、税務調査が入るのが一般的です。
病院・診療所は、一般企業・一般事業主よりも税務調査が多いのでは? という意見もあるようです。

それは医療関係だからというよりも、むしろ、単なるフリーの仕事や個人商店と比べて、病院・診療所は初期の設備投資が大きいからです。そのため、売上・利益も同規模の法人・個人よりも良好なことが多く、税金のボリュームも大きくなることから調査対象になりやすいといわれています。

しかし、そんな中にも、かなり長期間一度も税務調査が来ていない医院が法人・個人問わず存在するのも事実です。

2. その年・その署などで注目論点がある場合

その年・その署で、業種やポイントを絞って網羅的に税務調査をするケースがあります。

この場合は、身構えなくて大丈夫です。一応確認する、というスタンスなので、対応時間も短く、是認で終わることも少なくありません。

3. その納税者に個別の注目論点がある場合

特定の納税者を狙って行う場合は、様々な要素が考えられますので、事前に顧問税理士と相談しましょう。

ある程度場数を踏んだ税理士であれば、税務署の狙いの読みや、不安な点の対処など、アドバイスをくれるはずです。

税務調査の対象となりやすいケースをあげてみます。

*非経常的な利益・損失を出したとき
*消費税等の還付申告をしたとき
*収入の構成が変わったり、現金取引が増えたとき
*開業後、まだ一度も税務調査がなく数年経過したとき
*相続や大規模な贈与・資産の売却があったとき

思いあたることはありますか? もしあれば、そろそろかもしれないな、と心の準備をしておけば、いざ連絡があっても落ち着いて対応できることでしょう。

医院の税務調査の流れ

税務調査

税務調査の連絡が来た後の流れをみていきましょう。

まずは、顧問税理士の事務所に連絡を入れましょう。そうすれば、事務所の担当者が主導してくれるでしょう。

先生が何か不安をお持ちの場合も、税理士事務所に相談することで意外と簡単に解消するものもあるはずです。

また、仮に顧問税理士がいない場合も、誰か税理士の立ち会いを依頼した方が、スムーズに進み、先生がご自身で税務署と渡り合うよりも、結果的に時間・コストの節約になる可能性が高くなります。

特に始めての税務調査という方には、不安を事前に解消しておくという意味でも、一度検討してみられることをお勧めします。

通常は次のような流れです。

1. 実地調査のスケジュール調整
2. 実地調査の準備(書類の準備・税理士との事前打ち合わせ)
3. 実地調査当日
4. 持ち帰り事項の精査
5. 修正申告と追加の納税

1. 実地調査のスケジュール調整

開業医の先生ご自身や病院・診療所の経理担当者・税理士・税務署係官で実地調査の日取りを決めます。

この時に先生ご自身がすべきことは、短時間だけ顔を出すことのみです。診療を休んだりする必要はありません。ご自身の仕事を優先し、丸一日かかる対応や細かいことは、経理担当者や税理士に任せましょう。

2. 実地調査の準備(書類の準備・税理士との事前打ち合わせ)

実地調査で必ず見るような書類は、事前に準備しておきます。必要な書類は、税務署係官や税理士に指示を仰ぎましょう。初めての調査や重い論点がある場合などは、税理士と事前打ち合わせしておくと安心です。

3. 実地調査当日

朝10時から夕方5時くらいが一般的で、お昼は1時間休憩です。

ごく軽い調査では半日、個人や小さい事業者では1日で終わることもありますが、法人の場合など、2日~数日かかることが一般的です。

お昼休憩で係官は一度席を外しますので、このタイミングで税理士に相談したり、アドバイスを受けたりすることができます。

4. 持ち帰り事項の精査

調査当日は時間に限りがありますので、資料の精査に時間がかかりそうなポイント、後日追加で確認したい資料、当日結論が出なかったポイントなどは、翌日以降に持ち越しです。結論が出るまで、数日~数週間かかります。

5. 修正申告と追加の納税

何も否認事項がなかった場合は是認で調査終了です。ひとつでも否認事項があれば、修正申告と追加の納税です。納税は、本税(法人税や所得税)のほかに、加算税・延滞税もあります。

修正申告と納税が完全に終了するまでの期間は、短くて数週間、長ければ数ヶ月です。

論点と日頃から留意すべき点

税務調査

ここで、税務調査の代表的な論点をご紹介しておきましょう。

基本的な論点は、どの業種も同じ。これを念頭に置きつつ、病院・診療所におけるポイントをみていきます。

<収入>

収入の計上もれや過不足がないことは、基本的ですが重要です。

病院・診療所の売上の柱である保険診療は金額の操作ができないため、正しく処理できているかどうかという点、それ以外の収入ではもれがないことがポイントです。

■窓口で受け取る現金
■自由診療
■仕入先からの戻り
■原稿料・講演料

<経費>

他業種と同様ですが、設備など、他業種よりも高額となるケースが多く、論点となりやすい項目です。

■設備の購入・工事・処分:資産計上、修繕費、売却損の区分
■交際費:会食の目的・出席者などの確認

<現金取引>

現金取引は、預金取引よりも金額が小さく、金額的な影響度は低いといえますが、現金の管理ができていないということは、管理体制全体の信頼性を損なうことにつながります。

<医師会からの入金・医師会への支払>

医師会との取引は、入金・出金とも複数あるので、それぞれ正しく処理されているかがポイントです。

■入金:診療収入、医師会経由で加入している保険金の振込
■支払:医師会費、医師会経由で加入している保険料の支払

<家事費との区分>

計上している資産や経費が、全て病院・診療所の業務用なのか、兼用の場合は正しく区分されているかがポイントです。

<親族や関係法人との取引>

実態をともなっているかどうか、実態に見合った金額かどうかがポイントで、家事費と重なる部分があります。

仮に否認があると、役員に対する経済的役務の提供であるとして、二重三重の打撃(※)となります。

■役員報酬
■不動産等の賃貸借取引
■経営指導料

※否認の際の影響は、次のようなものです。
①役員個人が、給与として課税
②法人が、役員賞与の損金不算入・源泉の徴収もれ

以上、例示でした。

なお、ひとつひとつの論点はもちろんのこと、全体としての印象も大切です。

いくつか否認事項が出てきたとしても、全体としてきちんとしている上で出てきたのか?あるいは、きちんとしていない印象や、利益操作をしていそうな印象なのかによって、係官の判断・方針が左右される可能性はあります。

開業医の方に向けて、税務調査についてお伝えしてきました。

税務調査について知っていただくことで、「大丈夫、問題なし!」と安心していただけたり、「大丈夫だったかな?」と確認するきっかけになったり、少しでもお役に立てれば幸いです。

執筆者:DR’S WEALTH MEDIA編集部
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