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相続・継承目的での不動産活用事例と注意点

2019.08.30

医師の相続・承継対策と不動産

開業医の方々にとって、相続や承継は頭を悩ませる大きな問題の1つです。ご家族構成や継承者の有無によっていくつか方法はありますが、相続や承継対策として、不動産を活用すると良いという話を聞かれたことのある方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。
今回は、相続・承継目的での不動産活用事例や、その際に押さえておいていただきたい注意点についてお伝えします。

不動産を利用した相続税対策とは

大前提として、例えば預貯金として1億円を保有している場合と、売買価格1億円の不動産を保有している場合の相続税評価額は大きく異なります。つまり、この差を利用するのが、不動産を使った相続税対策の王道パターンです。
例えばその1億円の不動産が土地(更地)であれば、その相続税評価額は「路線価」が基になるため、実際に売買される価格の8割程度になります。
また、その土地の上にアパートが建っている場合、そのアパートの相続税評価額は固定資産税評価額が基になり、実際に建物を建てるのにかかった費用の6割程度の評価となります。
さらに、そのアパートを全て他人に貸している場合は、借地権割合30~90%、借家権割合30%の評価減が加わり、実際の購入価格の半分以下の相続税評価となる場合も珍しくありません。
以前よく話題に上がっていたタワーマンションの上層階を活用した相続税対策は、土地と建物の割合のうち建物の割合が高く、その評価額が階によって変わらなかったことを逆手に取った手法で、一時、富裕層に相続税を大きく圧縮できると流行していました。
2017年4月以降竣工の物件は、1階の固定資産税評価額が100とすると40階の固定資産税は110となるよう段階的に上がっていく方式に変更となりましたが、それ以上に高層階と低層階における実際の取引価格の差があるタワーマンションも多いため、依然としてタワーマンションの高層階は今でも相続税対策に有効だという見方もあります。

相続税対策に不動産を用いる場合の注意点

相続税対策のための不動産購入の注意点として、築年数に伴って取引価格が基本的に下がること、さらに、相続の直前直後で不動産売買を行い、その相続税評価額と売買価格に大きな乖離が見られた場合、明らかな相続税対策であると追徴が課せられた事例も存在します。
このように、相続税対策のための不動産購入は納税額を抑えることができますが、いざ相続が発生した際には納税資金の用意が現金で必要です。預貯金や金融商品に比べると、不動産を現金化するには一定の時間が必要で、売り急いでしまうと足元を見られて市場流通価格を大きく下回る金額になってしまうことも珍しくありません。
相続発生後直ぐに遺族が不動産を売却しなければならない状態とならないように、相続税の支払いや、直近のご遺族の生活に必要な分は現金や保険で遺しておくなど、資産のバランスを見て、相続税対策を行うようにしましょう。

税制面での優遇~小規模宅地の特例の活用~

不動産を活用して相続税対策を行う場合、忘れてはいけないのが、小規模宅地の特例の活用です。最大で80%もの評価減となるため、生前に適用範囲と適用条件を確認して、最大限に利用できるようにしておきましょう。
例えば、ご自身が所有の土地を、自宅や診療所として使用している場合は、下記のとおり評価額の減額が可能です。
自宅用…330㎡までの部分 事業用…400㎡までの部分 が80%減額評価されます。
例えば、土地の面積が1,000㎡で相続税評価5,000万円の土地を半々の割合で診療所と自宅として使用していて、小規模宅地の用件を満たしている場合、1,000㎡のうち、730㎡の評価額が80%減となり、その730㎡に対しての評価額は730万円となります。それに残りの270㎡分1350万円を加えるとその土地の評価は合計2,080万円となる計算です。
さらに、被相続人が所有する土地を医療法人に貸して、そこに医療法人が診療所を立てている場合や、土地も建物も被相続人名義でそれを医療法人に貸している場合などで、「特定同族会社事業用宅地等」に当てはまる場合にも、特例が適用され、400㎡までが80%の評価減ができます。
その他にも、例えば被相続人が賃貸用のマンションや駐車場を所有している場合には、「貸付事業用宅地等」として200㎡までの部分が50%減額評価されます。また、建物を貸し付けている場合は、建物の評価額が約30%減額されます。
このように、評価減の割合が高く、非常に高い節税効果が期待できる制度なのですが、残念ながら、医院も自宅も賃貸用のマンションも駐車場も…と全てに適用できるわけではありません。
たくさんの不動産をお持ちの場合は、どれにこの小規模宅地の特例の枠を使うかで、大きく相続税評価額が変わってきますので、事前に専門家と相談して優先順位を予め決めておかれることをお勧めします。

医療法人の活用した相続税対策

開業をされておられる先生の中には医療法人化されていて、所得税や法人税の節税目的で、医院の土地建物や社宅などを医療法人名義でお持ちの方もいらっしゃるでしょう。
しかし、医療法人で不動産を所有する場合には、以下の2つに留意した出口戦略が必須です。

◆医療法人は投資目的の不動産は所有できない

医療法人は営利団体ではないため、医療法人で投資や運用を目的とした不動産を所有することはできません。
例えば、社宅として、医療法人で一般的なアパートを所有することも可能ですが、医療法人名義のアパートであれば、それを第三者に貸し出して利益を得ることはできません。
医療法人名義の不動産は貸すにも、売るにも大きな制限がかかるため、もし、将来的に売却や転用を検討される可能性があるのであれば注意が必要です。

◆医院の出口を意識して医療法人に資産を残す

新医療法人の場合、医療法人の土地や建物などを所有していて、継承できる人がおらず、解散しなければならなくなってしまった場合、退職金等で取りきれなかった残余財産を遺族に払い戻してもらうことはできません。
一方で旧医療法人の場合は、医院の資産も相続税の課税対象となるため、膨大な相続税を支払いが発生する場合があります。その資産のうち不動産や医療機器など流動性が低い資産が大半を占めていたことが原因で、相続税の支払いが困難になり、継承うまくいかない事例なども存在します。
その対策として、よく用いられるのは、不動産は医療法人名義ではなく個人名義若しくは、後述の一般法人名義にしておくという方法があります。お子様が継承するかどうかわからない場合には、医院の土地や建物の名義は個人のままにして法人から家賃をもらったほうが良いといった話を耳にされたことのある方も少なくないのではないでしょうか。

一般法人の活用

個人で不動産の賃料を受け取ると、課税所得が増えてしまうため、近年では医療法人とは別に一般法人を持たれて、その中で不動産を運用されるケースも増えています。
一般法人とは、株式会社や合同会社等を指し、お子様が医師や歯科医師にならなくても継承が可能で、もちろん営利目的の事業も営めるため、一般法人を活用して医院の不動産や投資用の物件の管理を行ったり、その株式を暦年贈与したり、会社からご家族に給与を支払うことで相続税対策を行われている事例も存在します。

まとめ

このように、不動産を使った相続税対策といっても、その方法は数多く存在します。
多くの資産をお持ちの方であれば、事前に対策を行っておくかどうかで、課税される相続税の額が半分以下になるほどの差が生まれることもありますし、暦年贈与など時間をかけることで大きな効果を生む方法も存在しますので、お元気な今のうちから相続・継承対策を始めておかれることをお勧めします。

執筆者:DR’S WEALTH MEDIA編集部
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