開業医のミカタ

医療サービスの将来はどうなる!?

少子高齢化に向けたアドバイスを下さい

2017.03.09

少子高齢化に向けて準備しておくべき医院のこと

少子高齢化に向けたアドバイスを下さい

現在、人口10万人のT市で内科クリニックを開業して8年目になります。過去の実績を振り返ると、新規の患者さんが3年前から微減し、売上も5%程マイナスになっています。毎年ですが、確定申告の時期になると将来が不安になります。30年後のT市の人口は約7万人に減少すると予測されていますが、少子高齢化に向けたアドバイスがあればお願いします。

先生4

■相談者プロフィール
個人内科医院 T様(45歳)
■家族構成
奥様(35歳:専業主婦)、長男(6歳)、長女(3歳)
世帯収入:2,200万円
Answer

セルフメディケーション税制導入の本音とは

厚生労働省 生涯医療費

2017年1月からセルフメディケーション税制が施行され、「できるだけ市販の薬で治して」と自己治癒を促す意味で、1555品目の市販薬が税控除の対象となりました。総額12,000円以上100,000円までの範囲で最大88,000円の控除が受けられ、節税できた分、薬が安く買えるというお得なもの…でしょうか?

例えば、通常、風邪を引けば近所の内科か耳鼻科のクリニックに行きます。診察と薬の処方で3,000円程度です。自分で治そうと、ドラッグストアで風邪薬などを買い、自宅療養するのではどちらが安心でお得か? を考えると国の社会保障負担が大幅に減るとは思えません。セルフメディケーションはWHOの推奨で以前から進められてきましたが、思ったほど効果がありませんでした。この税制導入は「税金を安くする代わりに、軽症だったら病院で受診しないで!」と国の7割負担をできるだけ減らしたという本音が浮き彫りになっています。

この背景には厳しい財政の台所事情があります。高齢化が進む中で生涯医療費平均2600万円の半分を70歳以上で使っています(図表1)。現在男性の平均寿命が80.79歳ですから、この場合、0歳から70歳までの70年間で1300万円使い、残りの半分を70歳からの11年弱で使っているという計算になります。30年後には国民の30%が70歳を超えていると予測されています(平成27年度国勢調査、国立社会保障・人口問題研究所データより)。高額の医療費を使う70歳以上がこれから確実に増えていき、制度が破綻しかねないという脅威が現実味を帯びています。

国民皆保険制度は1961年からスタートし、全国民がいつでもどこでも必要な医療サービスが受けられる、医療のフリーアクセスを実現してきました。この税制導入は、国民皆保険制度の崩壊に対する社会保障限界の無音アラートかもしれません。

また類例として今年からiDeCo(イデコ)という名称で個人型確定拠出年金が愛称をつけてスタート(?)し、新たに専業主婦と公務員も加入できるようになりました。公的年金以外の積み増し分について自己責任での投資を促すものです。また65歳から70歳へ受給開始年齢の引き上げが着実に検討されています。これは団塊ジュニア世代のリタイア対策であると考えられます。国が年金制度を守る自信がなくなり、現役世代の自助努力で、近い将来の年金問題を食い止めたい思惑が見え隠れします。

このように財政都合での政策は他にも施行されると考えられます。受診を減らすため、自己負担割合3割が次第にアップするなどの強行策が講じられるかもしれません。これからの医院経営は政府が財政難のため、予防の促進普及に舵を切ったことを一つのポイントとして検証していくべきです。

※厚生労働省 生涯医療費(平成26年度)

予防の普及と進化

前回のコラムでお伝えしたとおり、歯科は8020運動が功を奏し、3ヶ月検診という予防リテラシーが浸透しました。これにより、患者さんからの安定的な収入確保に成功した医院も数多く見受けられます。また、サプリの流行、マスク着用など、健康維持のための自主的な予防も広まりつつあります。

ご周知のとおり2018年から総合診療医の専門医教育が開始します。欧米の多くの国で専門医診療の前にプライマリケア医(家庭医)による一次診療の制度が確立しています。このシステムに習い、日本でゲートキーパーの役割を果たす「かかりつけ医」の普及により、軽度の治療、予防を促進し医療費削減につなげようという取り組みが始まりました。

これからは診療報酬より予防報酬が増えていくべきだと考えます。極端ですが、かかりつけ医の報酬は、担当住民の疾病による受診が少ないほど収入が増え、治療、薬の処方が多いほど収入が減る逆転の発想が必要であると思います。

また現在へルスケアポイントの導入が各自治体などで進められています。健康管理のため体重、血圧の自主的な測定やウォーキングなどの健康行動などに応じてポイントが加算され、健康グッズとの交換や健康診断費用の減額が特典です。しかし、多くの取り組みは高齢者向けに偏っているように見えます。

このヘルスケアポイント制度が普及すると将来、医療費負担割合に反映され、健康であればあるほど負担が減り、通院回数が多いほど負担が増えるような制度ができるかもしれません。となると子供の頃からの健康リテラシー向上の必要性がでてきます。同時に「かかりつけ医」の役割もしくは使命が予防教育による健康人口の増加にシフトするはずです。この取り組みを率先して積極的におこなう医院がおのずと地域住民に選ばれ、永続すると考えられます。

運転免許証にはゴールドカードがあります。ゴールドカードの特典は更新頻度が5年の他、地域や企業によっては任意保険料の減額、ガソリン代などの割引の恩恵があるそうです。いずれは、保険証も健康ランクに応じて色分けされ、負担額の差別化が生まれるかもしれません。治療から予防の時代へ本格的に突入する中、医院のコンセプトや方針を予防中心にシフトし、地域との連携密着を最優先で考えるべきです。

※厚生労働省 保険局:保険者及び個人の予防・健康づくり等のインセンティブについて

フィナンシャルカウンセラーの必要性

私自身、ほとんどの医療機関で明確に価格表示を掲げているのを見た事がありません。自費診療で内科のにんにく注射や、皮膚科の美容整形では料金表がありますが、保険診療に関してはほぼ皆無です。初診であれば診察しないとわからないかと思いますが、長期の治療になるとどのぐらいの費用になるか正直わかりません。

シンガポールでは、入院前のフィナンシャルカウンセリングが義務付けられています。保険省の資料を使い、入院費と治療費など予測される金額を説明してから、該当する患者さんからサインを貰うというシステムです。患者さんはあらかじめコスト面で同意しているので、安心して医療サービスを受けられます。患者側の安心感の視点から治療の期間と金額の目安が提示できる医院とできない医院ではこれから大きく差が出ると予測できます。

今年に入り、二つの憤りを覚える事件が起こりました。まず、「新宿セントラルクリニック」の事件です。院長が患者さんに身に覚えがない性病の虚偽診断をし治療薬の代金をだまし取っていたというものです。この報道は医療に対する不信感を増大させた、本当に迷惑な事件です。現在長期的に治療を続けている患者さんから疑惑の目を向けられる二次的被害も予測されます。

そして、もう一つが岐阜県で歯科医院長が患者である男に刃物で切り付けられ死亡した事件です。真相は定かではありませんが、治療のため抜歯されたことが気に食わなかったことが発端だそうです。コミュニケーション不全だけが原因ではないと思いますが、応召義務を逆手にとった悪質クレーマーだった可能性も否めません。

もし治療計画と費用をしっかりと明示できていれば未然に防げた可能性があり、優しく評判がいい先生だったとのことで本当に残念でなりません。医院と患者さんの間で金銭面などのストレスのない関係性とシステムが構築できれば、「かかりつけ医院」としての役割を果たすのではないでしょうか。

フィナンシャルカウンセラーの必要性

【Plus One Advice】知ってて得する!恒吉のプラスワンアドバイス

まとめ

選ばれるクリニックとは…

医療提供サービスのあり方がAIの進化などで急激に変化していく中、「医は仁術」という倫理を中心に据え、算術(経営感覚)を持ち合わせることの必要性に迫られています。国の財政上、もっと厳しい時代は確実にやってきます。医院が選ばれ続けるには、次世代、新時代に向けての取り組みが鍵になると考えられます。予防の普及とコスト提示以外にも地域住民の支持を得られる策はまだまだあります。この機会に未来に目を向けてみてはいかがでしょうか。

選ばれるクリニックとは

「医の世に生活するハ人の為のミ、をのれかためにあらすということを其業の本旨とす、安逸を思ハす、名利を顧ミす、唯おのれをすてゝ人を救ハんことを希ふへし、人の生命を保全し、人の疾病を復治し、人の患苦を寛解するの外他事あるものにあらす」(扶氏医戒之略:第一条)

- 緒方洪庵 翻訳(江戸時代の医師適塾創設者/1810~1863)

開業医のミカタでは、いまさら聞けないけど知っておきたいなどのご質問も受付けております。次回もおたのしみに!

■プロフィール
恒吉雅顕(つねよしまさあき)
1972年福岡県生まれ
様々な業種を経験後、2006年/株式会社インベストメントパートナーズ設立メンバーとして参画
2014年/公益法人日本医業経営コンサルタント協会コンサルタント認定登録

開業医に関わる様々な問題解決を経営面、ライフプランから独自の視点でコンサルティングし、現在までに約500人の実践的資産形成の設計を行う。

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イラスト:かたおかともこ