マネジメント

仕事の満足感を高めて離職を防ぐ~ハーズバーグの「動機づけ・衛生理論」から考える~

職場づくり

2017.07.19

「ここで働きたい!」と言われる職場づくり

病院や歯科医院ではスタッフの入れ替わりが激しく、採用や教育にかかるコストの増加は多くの経営者にとって頭の痛い問題です。就業継続の意欲を高めるには、仕事の満足感と不満という2つの側面にアプローチすることが重要といわれています。今回は、フレデリック・ハーズバーグの「動機づけ・衛生理論」を通して定着率の高い職場づくりのポイントを考えてみましょう。

●ハーズバーグの「動機づけ・衛生理論」

「動機づけ・衛生理論」は、アメリカの臨床心理学者、元ユタ大学 特別教授のフレデリック・ハーズバーグが提唱したモチベーション理論の1つです。

一般に、「満足」と「不満足」は反対の関係にあると考えられています。そのため、「満足していない状態は不満足」、逆に「不満足でなければ満足した状態」と考えがちです。しかし、ハーズバーグは仕事への満足と不満足を以下のように捉えています。

“仕事への満足の反対はそこへの不満足ではなく、むしろ仕事への満足を抱けないことである。同様に、不満足の反対も満足ではなく、不満足が存在しないことである。”

ハーズバークは仕事の満足と不満足を反対の関係ではなく、満足を生む要因と不満足を引き起こす要因は別物であると述べています。この考えの基にあるのは、人間には異なる2つの欲求、「精神的に成長しよう」とする欲求と「苦痛を回避・防止しよう」とする欲求があり、行動を促しているといった仮説です。

満足感を与える要因は成長欲求に関連するもの、また、不満を招く要因は不満などの苦痛の回避や防止に関する要因で、それぞれ「動機づけ要因」「衛生要因」と呼んでいます。満足感や不満の原因について実態を調べると、仕事の満足感に関連した要因のうち約8割は動機づけ要因が占め、衛生要因は2割弱でした。一方、不満の原因はおよそ7割が衛生要因で、残り3割ほどは動機づけ要因が占めていました。

仕事の満足感にも、不満にも、原因の中には動機づけ要因と衛生要因の両方が含まれています。しかし、原因の内訳をみると、動機づけ要因は満足感の原因となり、衛生要因は不満の原因になっていることがわかります。

●動機づけ要因

動機づけ要因は、充足することによって仕事の満足感を高めることができますが、不足すると満足感のない状態を招きます。主なものを以下に示しました。

・達成感
・承認
・仕事そのもの
・責任
・成長の可能性
・昇進
 など

一般的に承認や成長などの人間の欲求には際限がなく、また、欲求の強さには個人差もあるので欲求を満たすのは容易ではありません。しかし、動機づけ要因は費用がかからないというのがメリットの1つです。

たとえば、経営者が「自分を名前で呼んで、わざわざ労ってくれてうれしかった」と、経営者の何気ないひと言が労働意欲につながったというスタッフの声を聞くことがあります。挨拶や名前で呼ぶという行為はその人を認める、存在の承認につながる行為です。経営者や上司は個々のスタッフがどのような意識で仕事に臨んでいるかを知り、スタッフの努力や工夫を認めるなど日頃から動機づけ要因を意識して働きかけるとよいでしょう。

●衛生要因

衛生要因は、不満の原因となるため「不満要因」と呼ばれることもあります。衛生要因の多くは、次のように執務環境に関連する要因です。

・企業の方針と管理
・監督のあり方
・対人関係
・作業条件
・給与
・身分
・福利厚生
 など

衛生要因の問題をそのままにしておくと劣悪な環境や危機的な状況から回避できず、労働意欲が低下したり、ストレス状態になってよいパフォーマンスができなくなったりします。そのため、定着率を高め、質の高いサービスを提供するためには人事・労務管理などの衛生要因を改善し、仕事上の不満を少なくすることが大切です。

ただし、衛生要因にアプローチして不満を取り除いても、満足感が高くなる訳ではありません。給与の少なさに対する不満を例にあげると、給与のアップによって不満は減少されても満足感を高めることは期待できない(あるいは難しい)ということです。仕事の満足感を高めるには動機づけ要因を満たし、不満を取り除くには衛生要因の改善を図るといった異なる2つの働きかけが必要になります。

●現状把握を基に定着率向上の方策を検討する

「最近、離職者が続いている」など何らかの問題を感じているときは、スタッフの生の声に耳を傾け、動機づけ要因と衛生要因の2要因から問題点を分析して解決策を探りましょう。従業員の満足感を把握する方法としては、スタッフ一人ひとりの面談「従業員満足度(ES)調査」などの質問紙を使ってスタッフの気持ちや考えを調べる方法があります。

質問紙調査は質問紙を作成、あるいは既存の質問紙を入手して院内で実施・分析すればコストを抑えられるのがメリットです。ただし、調査に手間や時間をかけられない、匿名性を保証し、より正確に現状を把握したいという場合には外部のサービスを検討するとよいでしょう。外注にすると一時的にコストはかかりますが、調査目的に合わせてカスタマイズした質問紙で実施でき、解決方法の立案やその後のフォローまで含めたサービスもあります。それぞれの事情に合わせて幅広く検討し、解決策につなげてください。

離職率が高いことは教育コストの問題に留まらず、サービスの質が低下し、医療機関としての信頼にも影響する可能性があるので適切な対処が必要です。スタッフが「ここでずっと働きたい」と思える職場にするためには仕事の満足感と不満の2つの側面から実態を把握し、職場の長所を生かしつつ問題点を改善していきましょう。

▼引用・参考文献
【新版】動機づける力 -モチベーションの理論と実践
第1章 「モチベーションとは何か」(フレデリック・ハーズバーグ)、p1-37
編・訳者:DIAMONND ハーバード・ビジネス・レビュー編集部、ダイヤモンド社(2009)
執筆者:DR’S WEALTH MEDIA編集部
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