マネジメント

クリニックを労務リスクから守る「就業規則」の重要性

クリニックの人事マネジメント

2016.05.18

人事労務コラム「クリニックの人事マネジメント」Vol.3

以前、当HPの「スペシャリストインタビュー」に登場いただいた、医療系人事コンサルタントの長友秀樹氏「クリニックの人事マネジメント」をテーマに短期集中連載を執筆いただきました。ぜひ、ご一読ください。

就業規則は、クリニックの職員が働く時間やお休み、お給料などの勤務条件や、職員がクリニックで働くうえで守らなければならないルールや禁止事項などに定めたルールブックです。特に職員数が10人以上(原則として非常勤医師・パート・アルバイトも含む)のクリニックでは、法律によってその作成労働基準監督署への届出が義務付けられています。

そうすると、「開業当初は職員数が10人もいないから、就業規則なんて作成しなくてもいいや」と考えがちですが、必ずしもそうとは言えません。就業規則がないということは、働く時間やお給料といった基本的な決まり事すら曖昧にしている状態になるため、職員との間でトラブルが起こりやすいということなのです。

特に最近では、メンタルヘルス・セクハラ・パワハラ・いじめ・職員の問題行動といった、従来の職場では考えられないようなトラブルが頻発しています。クリニックをこのような労務リスクから守るには、トラブルになってから行動するのではなく、トラブルを未然に防ぐことの方が重要です。そのためにも、これからの時代はクリニックを開業するのであれば、就業規則は必須のアイテムと考えて下さい。

こんな就業規則は危ない

就業規則は作ってしまえば何でもいいというものではありません。作成にあたっては、次の例のようにならないよう注意して下さい。

【労務トラブルを起こしやすい就業規則の例】

(1)知人やネットから入手した雛型をそのまま使う。
・異業種のものを使うと、規程内容と実際の就業体制との間に大きな乖離がおこる。

(2)開業前の勤務先の就業規則をアレンジして使う。
・勤務先が大病院であると、福利厚生など職員有利な内容になっている可能性がある。

(3)独自に勉強して作成する。
・最近の法改正に対応していない可能性がある。

就業規則は、必ず医療機関や業界の特性及び個々のクリニックの風土院長先生のお考え等に合わせた内容にして作成することが大切です。上記のとおり、雛型をそのまま使うようなことは止めましょう。また、最新の法改正や労務リスクに対応した規定を盛り込むには高度な専門知識が必要です。そのためには、就業規則のエキスパートである社会保険労務士に依頼するのがベストです。

クリニックが就業規則を作るときに気を付けたいポイント

クリニックのような医療機関は、職員が働く環境面で一般企業とは異なる点が多々存在します。例えば、女性が多い、専門職が多い、昼休憩が長く拘束時間が長くなりがち、労働時間が患者次第で管理しにくい、等々です。

このため、就業規則を作る際は、クリニックの特性に合わせた内容にすることが大切です。以下に、「働く時間」「服務規律」に関する具体的ポイントを挙げましたので、ご参考にして下さい。


○職員が働く時間について

・法定労働時間(1週40時間*、1日8時間)は守られているか?
 *特例対象事業場、職員数が常時10名未満のクリニックは1週44時間

・始業・終業時刻は、診療開始前の準備時間、診療終了後の片付け時間を考慮しているか?

・変形労働時間の活用をするか?
 →個々の医院の診療時間や季節による患者の増減などにより、変形労働時間制(1ヶ月単位の変形労働時間制・1年単位の変形労働時間制)を活用する。


○職員の服務規律にについて

・患者対応等の接遇に関して、注意を促しているか?

・職場における身だしなみ(髪型・化粧など)について定めているか?

・白衣等のユニフォーム着用に関するルールついて定めているか?

・クリニックの機密情報の保持や、レセコンやその他PC・電子メール等の使用について、注意を促しているか?

・セクシュアルハラスメント、パワーハラスメントの防止について明文化しているか?


この他にも有給休暇や産休・育児休業などクリニックには気を付けたいポイントがたくさんあります。クリニックをトラブルから守るため、そして、職員に気持ちよく働いてもらうために、開業にあたっては就業規則の作成をお考えください。

執筆者:社会保険労務士 長友秀樹

●社会保険労務士・人事コンサルタント
長友社会保険労務士事務所代表。大学卒業後、大手食品メーカーにて医療施設専門向け商品の営業を担当。2009年に社労士資格を取得すると会計事務所などで就業規則作成などに従事。そして2012年、医療に特化した社労士事務所を設立。「人」を中心に据えたコンサルタントに定評がある。

長友社会保険労務士事務所:nagatomo-office.com

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