INTERVIEW

1つ1つの工程でベストを尽くす

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2017.10.12

レザー職人 柳井康正氏インタビュー

“革”に魅せられた男・柳井康正氏。
ジャケットからバッグ、小物類まで洗練された技術と高いセンスで、ブランドからの受注やオリジナル製品の制作に意欲を燃やす。
そんな柳井氏の仕事に対するこだわりやモットー、そして今後の夢とは?

【プロフィール】
●レザー職人
1969年生まれ、神奈川県横浜市出身。高校卒業後、文化服装学院へ。革の工房に就職した後、93年に渡米。このことが後の作風に大きな影響を及ぼす。帰国後、自身のブランド「インサイドアウト」(後にセルアウトに改名)を設立。現在は自宅を改装した縫製工場にて、人気ブランドのレザーのラインナップを多く手掛ける。

革を扱っていないとどうしようもない人間です

ー幼い頃から広く“ファッション”というものに興味を持っていらっしゃったのでしょうか?

柳井 康正氏( 以下、柳井) :よく覚えているのは、幼稚園の頃、オーバーオールが好きで、よく履いていたんですが、ある日それを、汚くなってきたからという理由で母親に勝手に捨てられてしまったんです。僕は烈火のごとく怒りまして。

そんな僕を見たことがなかったので、母親も驚いていましたね。それが原体験です。

小学校に上がっても、ませた子どもでした。たまたま僕の周りの友達もファッションに興味のある連中が多かったこともあり、リーやリーバイスのジーンズ、アディダス、ナイキなどのスポーツブランドのアイテムを好んで着ていました。

そういう意味では、昔からファッションというものが好きだったんでしょうね

ー自然な流れでファッション関係の仕事に就きたいと思われたのですか?

柳井 :親からは大学に行けと言われていたんですが、洋服に関わる仕事だと一生やっていけると思っていましたので、親を説得して高校卒業後、文化服装学院に行きました。

僕たちの年代はちょうど〝黄金世代〞と呼ばれていまして、例えばファッションブランド『アンダーカバー』の高橋盾とも一緒に学びました。

彼からはすごく刺激を受けましたね。それで卒業後、下北沢の『シルバー・ダラー・クラフト』という革やシルバーアクセサリーの工房に就職しました

ー学生時代を経て、プロの職人として働きだして革製品に対する意識は変わられましたか?

柳井 :学生時代から課題などでもとにかく革を使って作っていたので、自分の技術に関してはある程度の自信は持っていました。もちろん『シルバー・ダラー・クラフト』では多くのことを学びましたが、特に吸収できたのは、制作期間、材料のコストなどを考えて商品に値付けする、いわゆる商売の面ですね

ーそもそも“革”に魅せられたきっかけは?

柳井 :音楽が入り口でした。ガンズ&ローゼズやモトリー・クルーといったアメリカのハードロックが全盛で、彼らが着ている革ジャンが格好良くて。

高校生の時に僕も初めて革ジャンを買ったのですが、そこから憑り付かれましたね。

今でもそうなんですが、布も縫えるんですけど、革を扱う際と気持ちの入り方が全く違うというか… 本当に革を扱っていないと、どうしようもない人間ですよ。

もっと器用にできれば、商売も今よりうまくいくんでしょうけど(笑)

制作は正しいと思ったことを積み上げていく作業

ー下北沢の工房の次はどのような道を歩まれたのでしょうか?

柳井 :貯めたお金で九十三年に渡米したんです。

ちょうどシルバーアクセサリーのブランド『クロムハーツ』などがすごい勢いで流行していた時期です。

毎日がカルチャーショックでしたね。
帰国後にブランド『インサイドアウト(現:セルアウト)』を立ち上げ、今でも自分のコレクションの装飾やデザインなどは当時の影響が出ていると思います

ー現在の主な仕事内容をお教えください。

柳井 :ブランドからの発注を受けて制作する仕事がメインです。

サンプルやコレクションでモデルが着用するもの、お店で売るものなど様々です。

マウンテンリサーチ、ベッドフォード、レイブニック、ピール&リフト、ディガウェルなどのブランドとの仕事が多いですね

ー制作するうえでのこだわりなどはありますか?

柳井 :『こういう革の方が良い仕上がりになりますよ』『こっちの問屋よりこっちの問屋の方が革が良いですよ』みたいなアドバイスやディスカッションは必ず行います。

職人としての目利きですが、本当はそれだけでお金を発生させたいくらいです(笑)。

自分が実際に作っていて、あまりにひどい素材で途中で嫌になることだけは避けたいですし、こちらの納品のクオリティにも関わりますからね。

後は、一つ一つの工程で自分がベストと思う仕事をするということ。

商品の制作は、自分が正しいと思うことを積み上げていく作業だと思っています

ー革製品は長く使えることも魅力の一つだと思います。保存方法などのアドバイスはありますか?

柳井 :最近は革の鞣(なめ)しがいいので、あまり油は塗らなくても大丈夫です。
油を入れすぎるとだれてきてしまいます。

風通しのいい日陰で、ジャケットでしたら形状を維持できる太いハンガーを使ってください。

また、バッグでしたら、中に“あんこ”を入れて形を崩れないようにしてあげる。
〝あんこ〞は新聞紙を丸めたもので構いません。新聞紙が余分な湿気や油を吸ってくれますので

ー今後の展望をお聞かせください。

柳井 :やはりオリジナルのレザーブランドでの展開ですね。工房兼ショップを作って、自分が思い描く革製品を形にしていきたいです。

十一月十七〜二十六日に新宿のビームスの一角で、これまでの様々なブランドとコラボしたサンプルなどの展示、オリジナルアイテムの販売を予定しています。
まずは、この催しが足がかりになれば嬉しいですね

ー長年、革と向き合っていても、未だに革は奥深いものですか?

柳井 :よくサーファーが『同じ波は二度とない』と言いますが、同じ革を同じ業者から仕入れても一枚一枚全部違うんです。

また、鞣しもいろいろな方法がありますので『今までこの鞣しの革は使ってなかったけど、なるほど、こういう表情が出るのか』とか、新たな発見が未だにありますね。

奥が深くて探求し甲斐があります。

…まぁ、わざわざ生き物の革を身にまとうこともないんじゃないかって言われることもあるんですが、仕方ないですよね。好きになっちゃったんだから(笑)