INTERVIEW

医院経営に必要なことは院長とスタッフの間の風通しをよくすること

長友氏 インタビュー

2015.10.29

社会保険労務士・ 人事コンサルタント 長友秀樹氏インタビュー

医療法人はもちろん開業医であっても、そこには働くスタッフがいるのですから、「経営」感覚と「マネジメント」感覚を持つことが必要です。とはいえ「診療」との両立はなかなか難しいもの。では、どのように医院を運営していけばいいのでしょうか? 医療専門の社会保険労務士として活躍している長友秀樹さんに伺いました。
【プロフィール】
社会保険労務士・人事コンサルタント。長友社会保険労務士事務所代表。大学卒業後、大手食品メーカーにて医療施設専門向け商品の営業を担当。2009年に社労士資格を取得すると会計事務所などで就業規則作成などに従事。そして2012年、医療に特化した社労士事務所を設立。「人」を中心に据えたコンサルタントに定評がある。

女性が多く、専門職中心だからこその難しさ

——医療法人はもちろん、開業医のみなさんも規模の違いこそあれ、スタッフを雇って運営されていると思います。その意味では一般企業と同じですよね?

長友秀樹氏(以下、長友):大きな意味ではそうですが、いくつか特徴を上げることができます。ひとつは“女性の職場”であること。そしてもうひとつは“専門職の集団である”ということです。

——それぞれについて、もう少し解説していただけますか?

長友:女性の職場ということについていえば、最も特徴的なのは女性ならではの要求があるということですね。

若いスタッフであれば、結婚、出産、育児についての要求がありますし、家庭との両立ということもあります。それらの要求にスムーズに対応できるような体制づくりを普段からしておく必要があります。

——専門職が多いという部分は?

長友:こちらが一般企業との大きな違いですね。具体的に言えば、縦割り文化なんです。病院でいうと、医局、看護、検査など、それぞれの部署内の縦のつながりが強く、部署間の横のつながりが取りにくい傾向にあります。

——事務の方が苦労するところですね。

長友:そうです。最近は医療のほかに介護にも手を広げている病院が増えていますが、ご苦労されているところが多いと聞きます。

これこそ“専門性”の弊害です。例えば入院されている方の体調が急変したとします。その対応が医療領域なのか、介護領域なのかで綱引きが行われてしまうことがあるんです。

——しかし高齢化が進んでいる現代において、病院が医療と介護の両方に踏み入れていくのは、経営的な面からいっても当然の流れだと思うのですが…。

長友:地域医療という側面から見ても、その通りだと思います。だから両者がうまくコミュニケーションできる、マネジメントが必要になってくるわけです。

——そこがなかなか難しいわけですね。

長友:うまくやるための特効薬があるわけではありませんからね。運営について熱心な方が現れて、引っ張っていかないとなかなかまとまりません。特に開業医のみなさんはマネジメント経験がないままに開業される方がほとんどですしね。

——診療はプロでも経営は初めてですね。

長友:ですから最近は、開業当初からマネジメントについては外部に依頼する先生も増えてきています。

もちろん、開業当初というのは、資金的にも余裕があるわけじゃありませんから、ご自分や会計士さんと一緒にやるという先生もいます。それに、そもそも労務関係に関心がなく、診療をきちんとしていればいいと考えている先生も多いんです。

——そういう先生も、いずれかのタイミングでマネジメントの重要性に気づくときがくるのでしょうか?

長友:スタッフからのクレームが発覚した場合ですね。就業規則も労働契約もない状態でスタッフを雇っている場合に多いんです。事務長にパワハラを受けたと訴えられた例があります。そうなると当然、院長の管理責任も問われるわけです。矢面に立つのも院長。そういう経験をされると、“就業規則をつくろうと思う”となるわけです。

——そういうトラブルを回避するためには、どうすればいいのでしょうか?

長友:最初から就業規則があればいいんです。雇用する際に、その規則を見せて“ウチの労働環境はこうなっています”ということをオープンにし、そのうえで労働契約を結ぶ。これは雇われる側から見ても“あぁ、しっかりとしたところだな”と前向きに取ることこそあれ、デメリットにはなりませんからね。

大切なのは明快な規則と風通しのいい風土づくり

——有給休暇について教えてください。

長友:そもそも休暇関係は難しいんですよ。女性の多い職場ですから、特に若いスタッフには結婚、妊娠、出産という、人生の大きな出来事があり、それらに伴う休暇は認められているわけです。

——解決方法は?

長友:これも特効薬というのはありません。権利はもちろん、法的に認められているわけですからね。組織の中で助け合ってやっていくしかない。だから、そういう風土づくりが大事なんです。

——なるほど。でも、そういう風土ができている病院は、魅力的な職場ということもできますね?

長友:定着率はいいですね。医療業界で働く人は専門職ですから、実は離職率・転職率も高い。労働環境のいいところに、比較的移りやすいわけです。だからいま看護師の人手不足が言われているわけですね。

歯科業界でいえば、衛生士さんをどの歯科医でも欲しがっています。そして労働条件というのは、なにも賃金や休暇の有無だけじゃありません。人と人がコミュニケーションを取りやすい風土があるか、ということも大きなポイントだと思うんですよね。

——給与面の取り決めで注意すべきことはなんでしょうか?

長友:給与の額面については、雇う側も雇われる側も最も気にする部分ですから、お互いが納得する形にするしかないと思います。

むしろ、先ほどからの繰り返しにもなりますが、有給休暇ですね。こちらが難しいと思います。

——有給休暇が取れる、取れないという問題でしょうか?

長友:そうですね。特に少人数の開業医ですと、実際問題として忙しくて休みが取りにくいということがあります。

——医院として、取ってもらってもいいんだけど、実情がそうではない、と。

長友:そうなんです。そこが病院の難しいところですよね。患者さんは原因があって、困って病院に来ているわけですからね。とはいえ、すべてに対応できるわけではないですし、スタッフの労働環境も守らなければなりませんから。

長友氏 インタビュー

——休ませられないことで、のちのち問題になっても困りますからね。

長友:そうですね。最近はパートの人でもきっちり有給休暇を取るようになっています。これは実際、増加傾向にある。

——それも法律で守られているから、休むなとも言えませんしね。

長友:だからこそ風土づくりが大事なんですよ。病院の運営に支障を来さないよう、スタッフの間で休みをやりくりしてもらう。普段から、そこに気を使っていくしかないんです。

——とはいえ診療や経営に忙しくて、運営までは難しい。

長友:ベストなのは、右腕となるマネジメント担当スタッフを置くこと。事務長が機能している病院というのは、うまく運営されていることが多いです。

院内にそんなスタッフは置けないというのであれば、外部の専門家やアドバイザーの相談できる体制をつくるということです。それが風通しのいい風土づくりにつながっていくと思います。

——お話を伺ってきて、いくつかのポイントが見えて来たと思います。ひとつは“就業規則などをつくり、運営の基準となるものを持つ”こと。そしてもう一つは“風土づくり”ということ。

長友:就業規則などは、例えば私のような社会保険労務士に依頼すれば、つくることができます。しかし、風土づくりというのは一朝一夕にできるものではありません。中長期的な視野を持って、つくっていくしかありませんね。

——そのときのポイントは?

長友:スタッフに対して、オープンであることだと思います。せっかく就業規則をつくっても、それをスタッフに理解してもらわなければ意味はありません。

それはつまり、経営に対してオープンであるということなんです。それが一番大事。そしてスタッフからも意見を出してもらうことで、コミュニケーションが成立するんです。

——でも院長には時間がない…。

長友:だとしたら、どうすればできるかを考えましょう。それができないとスタッフは、放置されていると思ってしまうし、モチベーションも維持できません。

——スタッフがいなければ、病院運営もできませんからね。

長友:病院運営を続けていくことを考えれば、“人”が大きなファクターであることはご理解いただけると思います。そのためのアドバイスでしたら、いくらでもします。いつでも相談にきてください。